潜入のために天幕に属してから語られていなかったマキャフィは、その間に天幕の一員としてDK2に送り込まれています。時間軸としてはちょうどSDにリセットがかかる直前まで。つまりDK2終了時まで、彼は団員として有能な人間を見繕うという裏の任務を与えられ、世界に送り込まれました。
そして帰還。ちょうどアイヴォリーが塔の崩壊の直前、“島”からの招待状を受け取ったときのこと。
アイヴォリーの偽島への導入編。
「さて……これで得物は十分だね。」
僕は友人から渡された棍を軽く振るうと肩に担ぐ。そのバランスは絶妙で、今までに僕がギルドから支給されたどんな業物よりも僕の手に馴染んでいた。これならば思った以上に“やれる”はずだ。
「出来ればね……“仲間”のために振るいたかったよ。僕だって。」
何に言い訳をしたいのかも分からずにそう呟いて、道を異にした、ひと時を過ごした仲間たちが去った自分の背中を振り返った。だが、その言葉は、それ自体ですらあの短くて長い日々に対する裏切りのような気がして、僕は小さく苦笑する。
「どの道僕は中間管理職さ。しがないね。」
“操り人形”。かつて僕を嘲笑して周りの奴らは僕のことをそう呼んだ。だが、そんなことは僕にとってはどうでもいいことだったのだ。僕には“先見の明”があり、自分を護ることが出来た。全ての敵を陥れ、屠り、上へと向かうことが出来た。
だが、それも今となっては何の意味もない。僕は今やギルドに敵対する身となり、その身の保障を天幕の力で得ている。あの男の縁者であることを理解された上で、僕は獅子身中の虫として天幕にいる。
それすら人形の踊りだというのなら、どこまでも踊らされてやろうじゃないか。僕にある“先見の明”と暗殺の技術は、それがたとえ誰から与えられたものであるにしても、僕本人のものに間違いないのだから。
「そろそろ……行きましょうか。“鉄面皮”最高にして、最後の舞台へ。」
振るった棍はあくまでも僕の手に馴染んで空を裂いた。
+ + + 「“漆黒”、任務より戻りました。」
大柄な男の前で頭を垂れ、膝を付き平伏する。僕の直属の上司に当たる男。ただ“泥”と呼ばれている。どこかの世界の傭兵だったこの男は、その世界でそれ以上自分が為すべきことがなくなったと感じて天幕の門を叩いた“正統派”だ。そしてまた、僕が天幕に“正面切って”乗り込んできたときに僕を拾い上げた人物でもある。面白いことを唯一の信条とし、天幕の目的と自分の目的が見事に合致してしまったが故に、ここを最終目的地としてしまったタイプの人間だ。それはそうだろう。ここにいれば際限なく強い者が敵として現れ、それを超える度に自らも認められていくのだから。
何にしても、この巨大な体躯の持ち主は直接的に敵に回せば、天幕の中でもかなり凶悪な部類に入る。
「で、どうだった、久々の外は。仲間ゴッコは楽しかったか?」
鼻を鳴らし、僕の方を見ようともしない“泥”。あくまでも今回の僕の任務は、同じ天幕から派遣された鶯の監視だ。彼が真っ当に任務を果たし、そこから逸脱しないかどうかを見ているだけのものでしかない。腕前はともかく、性格や嗜好に問題がある彼の、天幕としてのテストなのだ、そう“泥”は僕に言っていた。
そして、同時に僕がどう出るかのテストでもあった。
「監視対象の行動は資料にまとめデータベースに上梓してあります。まぁ、問題はなかったと言えるでしょう。」
「お前も、な。」
隠し事が出来ないタイプの彼は、そういうと溜め息をついた。仲間であればいい友人にもなれたかも知れない人物だが、そもそも僕は“獅子身中の虫”。それに、僕は元より友人など必要とはしていない。
「で、これを見ろ。」
“泥”はそういうと、数枚の写真を投げてよこした。塔を中心とした街。僕もデータベースで見かけたことのある数人の天幕の構成員。そして、それとともに塔を探索する小さな妖精と、白い盗賊。
「お前が出張っている間に、向こうからアクセスがあった。学園と呼ばれる場所、そしてその塔の街。そこへは、協力者として参加している。
どう見る、お前なら。」
僕は細心の注意を払って言葉を選んだ。もう、僕の舞台は始まっている。
「彼ならば、心の底から天幕に戻ることはないでしょう。安全のために協約を結ぶのも一時的なもの。近い内に、再び離反します。」
その僕の言葉に、“泥”は鼻を鳴らした。僕が予想通りの答えを返してきたことが、彼としては気に入らなかったらしい。
「R,E.D.なき今、“金色”と奴との決め事は機能していない。いずれ“金色”もこの男に対しての聖域を解除してしまうだろう。そうなれば……お前はどうする。ここに残る意味もない。さりとて、行く当てもない。ここを出ればまたギルドの連中との追いかけっこが始まるだけだ。」
「ですが、使える間は使い、安心しきったところで全ての希望を断つ。“見せしめ”として、これから“唯一の男”を出さぬために。違いますか。」
そう、“涼風”はいつかまた、再び離反する。それは天幕も理解しているのだ。後は、その処刑のタイミングをいつにするかの問題でしかない。最も効果的に、再び離反者が出るようなことを決して許さぬために。そのときが来れば、“涼風”は何も出来はしない。天幕は自らの面子を回復するために、全ての力でもって彼を抹殺する。
それまでに、僕は出来る全てのことをしておかなければならない。そのために不要なものは、全て排除しなければならない。
「まぁ良い。お前の“先見の明”は、実際に天幕にとって有意義なものであることが今回のテストで証明された。お前のその能力が活用される限り、お前は天幕から排除されることはないだろう。精々考えておけ、ややこしい事態に陥る前に、な。」
それは“泥”の、僕への善意だったのかも知れない。上手く立ち回れば、“象牙”とお前を切り離してやることも出来る、と彼は言ったのだ。
だが、そんな気遣いは僕には不要だ。
僕は懐に忍ばせた連結棍を抜きながら、背中を向けようとする“泥”へと踊りかかった。蛇のようにしなる棍が一撃必殺の威力を持って彼の頭へと伸びる。どれほどまでに鍛え上げられた彼の頭でも、その一撃を受けて立っていることが出来るはずもない。
そして、僕の必殺の一撃は彼の太い腕に弾かれた。
「もう少し……我慢強い男かと思っていたんだがな……“漆黒”よ。」
右腕をだらりと垂れさせたままで、“泥”は僕に向き直った。その間に僕は連結棍を引き、一本の長い棍に組み合わせながら間合いを詰める。顎を狙って突き込んだ次の一撃は左手でいとも簡単に払い除けられた。
「今の僕が存在する理由など、戦場の犬のお前には判るまいっ!」
払い除けられた反動を利用して足を横薙ぎに払う。半歩下がった“泥”は僕の出方を見るようにして反撃してこない。
「“先見の明”は、お前たちのためにあるんじゃないっ!」
間合いを詰め、下がることで後ろに傾いた重心を崩すべく僕は“泥”に肩を当てた。それを、子供を親が受け止めるようにして受ける“泥”。
「そんなこと、お前が決められるとでも思っていたのか?」
同時に、僕の首が鈍い音を立てるのを、僕は自分の耳ではっきりと聞いた。
+ + + 「“先見の明”、どこまでが本当に有用なものやら……。」
「有効に機能するならば、“泥”に彼程度の能力で斬り込んだりしなかったはずなのですがね。」
「とは言え、R,E.D.の運命編纂による能力付与、研究の価値はあるでしょう。こうしてデータを取る分には悪くない。」
全ての音は、信号として与えられているようだ。恐らくは、カメラをつなげられれば視界も与えられるのだろう。
僕は、こうして不要なものを全て捨てた。彼にこれから必要なものは、彼が死んだという事実。天幕により処分された、という事実。本当に“涼風”が動くときに、その準備をするためにどうしても必要になるのは時間なのだ。
僕がここで少しの間眠れば、すぐにあの電子妖精が現れるだろう。“涼風”の、有り余る魂なき肉体を拠り所にしてスケープゴートを作り出すために。そのときに、完全に“涼風”を模せるのは、僕を置いて他にはいない。
僕はこうして不要なものを全て捨てた。後は時期が来るのを待つだけだ。
“先見の明”を舐めてもらっては困るのだ。
あくまでもアイヴォリーにかつての恩を返して自らが死ぬために、と書かれてますが実際はどうでしょうなぁ。DK2で出会った天幕団員以外の仲間を守りたかったのかも知れませんが。
ちなみにこれでアイヴォリーはSD世界で摩り替わりをすることにはなりますが、その後リセットがかかってしまったためにマキャフィはアイヴォリー=ウィンドとして死ぬことは出来ませんでしたw
多分アイヴォリーの顔のままどこかで生きているか、世界の崩壊に巻き込まれて人知れず憤死かのどっちかでしょう。誰かがその場その場で運命をひねくり回しているために被害にあった一番可哀想な人です。ま、その内な。
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- 2007/05/16(水) 16:01:48|
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このときはプロフ欄しかなかったため、非常に面倒だった。
……血が滴っている。そこの机から、あの椅子から、アイツの死体から、自分の刃から。ギルドの会合は瞬く間に凄惨な狩り場と化した。足元には、怒りの余り傷付け過ぎた長の死体が転がっている。
確かに彼にしか殺せなかった。彼でなければならなかった。だが、だからと言って彼に、たった一人の女性を殺させるなどどういう了見だろう?彼は他人事のように狩りの結末を見渡した。他の街のギルド連中がこれを見るまでにどれくらいかかるだろう?彼は頭の中で必要な時間を考え始めた。時間は充分にあるが、それにはこの街を離れなければならない。それは、ある人間との永遠の別離を意味していた。
どっちにしろ、この辺が足の洗い時だったのかもな。純白の涼風は、二振りの狂気をブーツに収めると、心当たりの人間を訪ねる為に住み慣れたここを後にした。
アイヴォリーは、月明かりの裏路地を歩いている時に背後に気配を感じた。よろしくやっていた後なので機嫌が良かった彼は、少し『大人の対応』とやらを取る事に決めた。態々気分を害する事もない。曲がり角を曲がった所で影に姿を消すと、気配が通り過ぎるのを待つ。
「安く見られたものだな?」
黒尽くめの男は咄嗟にダガーを抜き放つが、影の多い裏路地でアイヴォリーの姿を捉えるには至らない。
「その色は、マキャフィの所か。遂に奴も動く気になったのは良いが、まだ手心が残っているな?」
一陣の風が、月を雲に隠す。
「足を洗って逃げるんだな。そうする以外に、道はない。」
男は僅かな気配を探り、影に必殺の一撃を放った。
月明かりが再び風によって戻る。
「悪く思うなよ。」
鈍く琥珀色に輝くダガーを男の足元へ投げ捨て、アイヴォリーはそこを後にした。
基本的に、暗殺者という奴は使い捨てだ。「アサシン」という言葉の語源が麻薬である事からも判る様に、逃げる事を考慮しなければ目標をこの世から消すという仕事はそれほど難しい事ではない。そんな訳で、『純白の涼風』はとある豪邸の庭にある枝の上で追っ手が去るのを待っていた。
「そろそろ、か。」
一人ごちて『純白の涼風』は、改めて逃走ルートの算段にかかる。彼が枝から飛び降りようとしたその時、唐突に木に面した窓の一つが開いた。
「そこにいるのは、誰?」
開かれた窓の向こう側には、薄らとドレスを身に着けた女性のシルエットが見て取れた。明かりすら点けずに開かれた窓。それでも、人の気配を察知できず、なおかつ気取られたのはミス以外の何物でもない。だが、この闇では彼の姿を見る事は、同業者でも困難な筈だった。気配を消し、自分の存在を殺してやり過ごす事に決める。
「見えてるわよ。貴方の眼は、闇の中では輝きすぎるもの。」
『純白の涼風』は、心の中で舌打ちする。
(殺すか?)
だが、無関係の人間を殺す事は、点数からいっても上手いやり方ではない。口の端を僅かに歪め、『純白の涼風』はこの振って湧いた厄介事をどう始末するか考えあぐねていた。
「何故、お前には俺の姿が見える?」
「日の光を見ることが出来ない私の目には、貴方の目は輝きすぎているから」
会話で時間を稼ぎながら、『純白の涼風』は逃走経路を組み立てている。……確か此処は豪商の何とかいう奴の館だ。恐らくこの女はその娘だろう。娘は「取替え子」のために軟禁されている、という専らの噂だったのだが、そういう事だったか。
噂では人外の如き怪物、という事だったが、彼が見た以上、彼女は不幸な病を背負わされた薄幸なだけの少女に見えた。病により日に当たる事が出来ないだけで、そのために儚さが美しさを引き立てていると言っても良い少女だった。
「それで、どうしてそんな所にいるの?」
少女の問いが『純白の涼風』を現実に引き戻した。まだ、表では衛視の声が遠く響いている。まだ此処を逃げる訳にはいかないようだ。
「どうして、お前は俺を恐れない?」
少女がすぐに叫ばなかった事が、『純白の涼風』に余裕を与えていた。
「どうして恐れないのか……そうね、貴方は悲しい目をしているもの」。
しかし、『純白の涼風』は何事も無かったかのように言い放った。
「俺は、相手が誰であろうと殺す事が出来る。お前の弱く、強い瞳ならそれも見えるんじゃないのか?」。
「貴方は、殺す必要のない人間は殺さないわ。今、貴方は私に刃を向けていない。でなければ、もう私は死んでいるはずだもの」。
そう言った少女の笑みは、『純白の涼風』をたじろがせた。恐れを知らぬ、純粋過ぎる瞳は『純白の涼風』にとって経験した事の無い物だった。無論、彼は知る由も無い。この少女を守る為に、自分がギルドメンバーを皆殺しにしてそれまでの生活を捨てる事になるなどという事は。
最後に長を追い詰めて、『純白の涼風』は依頼者の名前を聞きだした。長は諦めて首を振り、拷問の痛みからではなく、何をしてもこの男は依頼者を見つけ出すだろう、との悟りから依頼者の名前を口にした。
その名前を聞いて、彼の何処かが壊れた。そして同時に、少女を守る為に殺さなければならない人間を知った。彼は屋敷に忍び込み、少女の部屋を通り過ぎて彼女を父親を殺した。救いなど、何処にもない。これから少女がどうなるのかも判らない。それでも、『純白の涼風』に出来る事はそれだけだった。
返り血に塗れた『純白の涼風』は、最早その純粋さ―それは殺人という負の物ではあったが―を失った。返り血はやがて黒く染まり、薄くなって象牙色になっても『純白』に戻る事は無かった。何時しか、『純白の涼風』は姿を消し、『象牙色』を名乗る男が現れた。
Side:Syel「僕に頼むのは自由だけど、それは魂を売るってことだよ?それでも君は力を望むの?」
「それでも構わない。それが俺の望みだ。」
「それ程までに力を持ち、それ程までに純粋な君は、これ以上何を望むの?……いいよ、望みを叶えてあげる。『返り血に塗れ続けたお前は今、初めて汚された。』」
Side:Ivoryいつかの路地。
「旨そうなヤツを、逃がしちまって本当に良いのかねェ?」
闇の中から語りかけた彼の眼には、何時かの空虚さは見えず、優しさが見える。
「道楽でやってるだけだからね。それに、他にも堕ちていく者はたくさんいるもの。」
月明かりに佇む二色の翼が、微かな夜風に揺れる。
二振りの刃が、彼のブーツに納められた音だけが響き、気配が消える。
「どうせ、逃げ続けるんだよ。逃げなければいけないものが、一個増えただけ。また一つ、余計なものをしょいこんじゃったのさ。君は、それでも良いんだろうけど、ね。」
『象牙』に続いて、『透明』も消える。
Side:Syel「もう戻る事は無い。」
「この先交わる事も無い。」
「だが、記憶に残り続けるのであれば、お前は確かに存在した。」
Side:Ivory実際、『純白の涼風』には、それ程の力は無かった。彼にあったのは、やり場の無い怒りと希薄な現実感、それに人を殺める事への罪の意識の欠如だけだったのだ。無論、それだけでも「それなりの」アサシンとしての資質は備えていた。だが、誰にも気付かれずにどんな任務をも成し遂げる程の、暗殺を常とする同僚を皆殺しにする程の力は、彼には備わっていなかったのは確かだった。
だから、『純白の涼風』は力を欲したのだった。そして、その望みを叶えた者が世界に一人だけいた。その時から、彼は僅かに残った魂をも売り渡し、二つの任務を遂行する魔物となった。彼に風の如き迅き翼を与えた天使は、微笑みながら彼に申し出た。「僕に魂をちょうだいよ。」と。そして彼は獲物と自らの魂をその存在に捧げた。
しかし、その力で持って行為を為すべき目標が、その少女になる事は、かの天使にのみ知りえた事であり、彼がそれにより心を砕かれる事になるとは、当の本人さえ知る由は無かったのだ。
Side:Syel『逃げる逃げる逃げる。僕は追ったりはしないよ。君を追うのはもっと別のもの。運命という名の猟犬。』
『追う追う追う。運命という名の猟犬からは誰も逃げる事なんて出来やしない。』
『良いでしょう?楽しいでしょう?君たちの、腐ったまま死んでゆくその人生に、ちょっとした味付けをしてあげるのが僕の仕事なんだから。』
Side:Ivory結局、彼は自分で密かに暖めていた策を諦めざるを得なくなった。『金色』、つまり「ボス」と呼ばれている彼に、宝玉を渡す時には会える。もしくは精霊に希いを叶えて貰う、という事も視野に入れてはいたのだが。
だが、既に彼の手元には宝玉は一片もなく、それ故に強攻策しか彼には残されていなかった。最も彼が不本意、不得意とする案であったが、最早彼には時間の猶予は残されていない。
だが、まだ彼は諦めてはいない。『金色』と「会談」の機会を持てれば、必ず『銀』も出てくるはず。その瞬間に賭けるしかない。彼、アイヴォリーはまだ戦う気力を残している。為すべき、唯一の事の為に。
Side:Syel「そろそろアイツも突入の覚悟を決める頃かなぁ。……あれだけ助けてあげたのに、結局あのザマじゃ救いようがないよね。」
「まぁいいや。もう一回助けてあげるとしようか。まだ戦意は失ってないみたいだしね?」
「まったく、世話が焼けるヤツに関わっちゃったなぁ。まぁ、もう少し遊んであげよっか。」
Side:Ivory「虹色天幕」の本部に入るという事はメンバーでも滅多に許される物ではない。だから、彼は今、自分達の本部に侵入していた。
「ヤレヤレ……」
僅かな明かりだけが灯る廊下を音も無く進み見張りを一撃で屠る。まだ培った殺しの業は朽ちてはいなかった。そして「金色」の部屋へと体を滑り込んだ彼は、ダガーを抜くとその寝床に忍び寄る。だが振り下ろされた刃は白銀の軌跡によって逸らされた。
「『象牙』。お前の今の行為を背信と見做し、『金色』の安全の為に排除する。」
澄み切った、感情すら感じさせないその声の持ち主は、銀の髪と瞳を持っていた。アイヴォリーよりも一回り以上小柄なその影は、少女の風貌に似合わぬ冷酷な声で死刑執行の宣言を口にした。だがアイヴォリーは一瞬目を細め、動じた様子も無くマジカルパンプのカプセルを口へ放り込む。彼の視界にクスリによるオーバードーズで「魂の緒」を繋ぐ結線が見えた。
一人なら逃げられた。
彼の左眼が魔力に耐え切れず血を噴き出す。
彼女の心だけは守りたかった。
一太刀目をフェイントで浴びせかけ、弾かれたダガーが宙を舞う。
同じ世界に住むべき存在ではなかった。
首元に肉薄した彼のダガーが少女の首を拘束する輪を断ち切り、それと同時に彼は腹に長刀を突き立てられた。
「さあ、戻ろうぜ、あのお屋敷へ。」
自分でも驚くほどはっきりと言った後で、アイヴォリーは「金色」の哄笑を聞きながら倒れた。
Side:Syel「あ~あ、やっぱり失敗しちゃったか。」
魔術の目で状況を見ていた天使は、仕方ないといった表情で転移の魔術を行使した。跳んだ先では、魂を取り戻して呆けたように座る少女と、その傍らで倒れた暗殺者。そして彼に近づく「金色」。天使は「金色」に目をやると、くすりと微笑んで彼に手を振る。
「ご苦労様。キミも大変だよね。」
そして間髪入れずに翼を大きくはためかせた。部屋の中を黒と白の羽毛が舞い、視界を塞ぐ。そして羽の嵐が去った後には「金色」と「象牙」、そして「壊れた人形は君が好きにすれば良い」と書かれた血文字。それを見て、「金色」は再び哄笑した。
天使の片腕には、気を失った「銀」が抱かれている。明け始めた空を見上げ、天使は誰とも無く呟いた。
「あ~あ、これだけ良い事してるんだから、その内僕も空に上れるのかな……。」
空は、果てしなく澄んでいる。
Side:Ivory;Last Day「ヤレヤレ、『銀』の魂の緒を破壊してしまうとはな。彼女が解放されてしまったではないか。私はせっかくの操り人形を一つ失ってしまった。」
(これは……誰の声だ?)
「まぁ丁度いい。今までの身体には飽き飽きしていたところだ。これからはこの身体を『金色』とし、今までのものは『銀』にくれてやるとしよう。聞いているのか?意識は残してやったはずなのだが。」
(なぜ、身体の自由が利かない?)
俺の身体が、落ちていたマントを拾いそれを纏った。鏡に映った俺の、白い髪は、赤い瞳は、金色に染まっていた。
Side:Syel;Release of Ery私は気付くと解放されていました。でも、あの『透明』と名乗った子は何も教えてはくれませんでした。唯、「屋敷に帰って良いよ。」とだけ、私に告げました。
そして、その子が差し出した二振りのダガーを手にした時に、胸が苦しくなりました。痛く、切なく、悲しく。それでこれはあの人の物だと私は思い至り、極自然にそれをブーツに収めたのでした。その二振りの刃は、まるで帰るべき所へ戻ったかのように、とても収まりよく私のブーツに佩かれました。
私はまだ、屋敷には帰れません。この胸の痛みを消すまでは。この悲しみの理由を突き止めるまでは。そして、あの人に会うまでは。
- 2007/05/15(火) 13:55:03|
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要するにサイトを手直しするのは面倒、ということで書庫化するつもりの投げやりスペース。
まずは設定関係。
“涼風”
大陸の商都クィレスの街のアサシネイトギルド風部隊所属アサシン。"裏切り者"の運命を与えられた"流転する者"。
彼は両手利きでブーツに収めた二振りのダガーを使う非常に腕利きのアサシンだった。デフォルト装備の皮鎧が白だったため、"純白の涼風"の異名で怖れられる。
任務中にエリィ=マクシミエルと出会い、その後に彼女を暗殺する任務を受けた時点でギルドを離反。自らを鍛えたギルドに殴りこみ、同僚全てを殺害して出奔した。
“アイヴォリー=ウィンド”
両手利きのシーフ。涼風はギルドの追っ手をかわす為に"象牙色の微風"という偽名を名乗り虹色天幕に身を寄せていた。幼少の頃にギルドに拾われコードネームを自らの名前としていた彼にとって、現在では本名であると言える。
虹色天幕の実働部隊として宝玉探索の任務に就くが、エリィが虹色天幕の支配下にある事を知って天幕を離反。肉体と記憶を奪われて"銀"として幹部となっていたエリィを解放する。その際に"金色"に肉体を支配されるが、後にエリィに救出され、離れ小島に飛ばされる。
離れ小島で出会ったフェアリーのメイリーと行動を共にするようになり、彼女の"妖精騎士"となった。
色々な結果偽島滞在中<何
エリィ=マクシミエル
豪商の家に不幸な病を負って生まれた少女。その病のために日の光に当たることが出来ず、ヴァンパイアのチェンジリングとして父親に幽閉される。涼風と出会い、後に涼風が彼女の父親から依頼されたエリィ暗殺を蹴り、逆にエリィの父を殺してしまったことで身寄りを失くした。その後アイヴォリーの掌握の為に虹色天幕に拉致され、"銀"の魂をその肉体に結わえ付けられることによって幹部"銀"として暗躍していた。アイヴォリーのエリィ救出の際に"銀"の魂がアイヴォリーを窮地に追い込むが、彼が"銀"の"魂の緒"を破壊したことによって"銀"から解放される。
その後シェルによって教会に引き取られることとなり、司祭としての教育を受けるが、"金色"に支配されたアイヴォリーを解放するために虹色天幕に潜入、彼を解放することに成功する。だが、撤退に際して次元の扉を"金色"に歪められ、別世界に飛ばされた。
司祭でありながら伝承にもない存在の力を行使する魔術を使う。
シェル=トランスパレンシー=スカイ("透明な空"シェル)
黒と白、二色の翼を持つ人外の存在。"対立せぬ矛盾"、"最後に救う者"、"イレギュラー"と呼ばれる。二色の翼を持つ光る球体としての姿が本来の姿なのだが、人間と接触する時にはブロンドのあどけない少年の姿をとる。性格は羊の皮を被った狼そのもので、表面的には純真無垢、その実態は狡猾で血を好む。
他人の運命にちょっかいをかけ、それによってその者が運命に翻弄される事を楽しむ者。
運命調律者の一部から創造されたデータとしての存在だということが判明している。彼の“書斎”の管理、各種伝令の役割を帯びていることから、滅多に外に現れることのない運命調律者の、外部との連絡手段だと思われる。
マキャフィ=シモンドール
涼風のギルドでの幼馴染。糸のように細い目に柔和な笑顔、魔術師の如き黒ローブとスタッフを持つ暗殺者。変装の名人で先見の明に長けており、涼風のような実働部隊ではなく幹部候補生として育てられていた。幼い頃、訓練中に涼風に命を救われてから彼に便宜を図るようになる。涼風が離反した際に、アサシネイトギルドからの命令で彼に追っ手を差し向けるが全て撃退され、叩き上げの他の幹部の中で孤立する。小島に飛ばされたアイヴォリーを追って最後の望みをかけ彼を襲撃するが撃退され、部下を全て抹殺して自らは島に身を隠すことにする。何気に毒学に造詣が深く、ギルドでも毒の大家として知られていた。アサシンだけあってスタッフでの戦闘術も心得ている。
何かの思惑から虹色天幕に入り、その後の行方は分かっていない。
"金色"
盗賊団「虹色天幕」の頭領。その姿は一定でなく、老婆の時もあれば、少年であったり生気に溢れた青年であることもある。常に同じであるのは髪と瞳の色。"流転する者"の一人であるのか、それとも魔術の類によるものなのかは不明だが、どの世界、どの時代においても同じ魂を持つ虹色天幕永遠の支配者。宝玉を欲しているようで、各世界に「本部」と呼ばれる建物を設営させ、次元の狭間にある自らの居住区「真の本部」に接続している。
"銀"
常に天幕の頭領である"金色"に付き従う者。"金色"と同じくその姿は様々であるが、永遠に彼に絶対の忠誠を誓う存在。"銀"は魂のみの存在であり、その魂は装身具に封印されている。"金色"が"魂の緒"をある肉体に繋げることによって、"銀"の魂が肉体を掌握し、"銀"となるのである。エリィが一時期"銀"の支配下にあったが、"魂の緒"を肉体から切り離すことによってアイヴォリーが解放している。現在も"銀"は存在するのだが、表舞台に現れていない為に"銀"の現在の姿は分かっていない。
虹色天幕
"金色"を頭領とする盗賊団。各世界を股にかける次元盗賊団のひとつ。高い結束力で知られている。メンバーには名前や二つ名に色を入れることが義務付けられている。愛堂橙馬、アイヴォリーウィンド、RED-EYE、など。各人が特殊な技能、一騎当千の戦闘力などを持った者の集団で、ひたすら歌舞いており、盗賊団という名称から想像されるものからは実状は程遠い。
唯一はっきりしているのは、総メンバーが戦闘に狩り出されれば所詮世界をその範疇とする「国」などひとたまりもない戦力になるということくらいか。ただし、各人が勝手過ぎて全員が集まると恐らく何も出来ない。と言うか自滅しそうではある。
“流転する者”
"転生者"、"エターナルチャンピオン"、"必要存在"等とも呼ばれるもの。多層世界の調整者。各世界の中のひとつで、一定の役割が必要となった時にその世界に現れる。世界自体の崩壊を防いだり平和をもたらす"英雄"や、秩序の破壊を行う"魔王"、綻びが生まれた時にそれを塞ぐ"贖罪者"など、その役割は各々の魂によって定められている。その姿は必要とされる世界に現れるたびに異なり、一定ではない。自らの役割を生まれた時から知っている者もあれば、全く自らの役割を知らず、無意識にそれを果たす者、状況に直面してそれを知る者など様々であるが、彼らの行動は運命によって「かくなる」ように定められており、役割を逸脱することは基本的にない。
アイヴォリーは運命調律者によって、彼の実験のために人工的に造り出された“流転する者”であり、実験が失敗に終わると即座に魂の解放によって消去される。そしてまた実験が始まる。
そのために天幕の中には、運命調律者だけが知る部屋があるといわれ、そこには魂を未だ持たない“起動待ち”のアイヴォリーが無数に存在すると言われている。
妖精騎士
ある世界の中で伝説に謳われた存在。小さき存在を護る者。高名な騎士が小さな妖精に忠誠を誓い、護る事を誓ったことが発祥と言われている。彼の身体はそれから老いず、死なず、たとえ戦場で倒れても再び立ち上がり妖精の命が終わるまで護り続けたという。
伝説の中には何人かの妖精騎士が名を残しているが、現在では守護対象であるフェアリーそのものが少なくなったために、妖精騎士の姿を見ることはない。
不老不死となるため、妖精との契約は"妖精の加護"と呼ばれているが、"妖魔の呪い"とそれを呼ぶ者もある。守護対象が天に召されるまで永遠の時を生き、また何度でも死の絶望を味わいながら再び立ち上がるのは、果たして幸福なのか不幸なのか定かではない。
アサシネイトギルド
大陸に存在する暗殺者統括機関。政府や豪商からの依頼を受けて暗殺任務を行う。大きな街ごとに置かれており、ギルドには各々"長"と呼ばれるギルド長を筆頭にアサシンが在籍している。長同士は緩やかな結託にあるが、油断すれば挿げ替えられるのは当然である。彼らが唯一協力するのは、ギルド自体の存続が危ぶまれるような事態に陥った時のみである。アサシンは職業暗殺者であり、時によっては間諜の役割も果たす。長は各自が依頼を判断し、依頼を受諾するかどうかを決めることになる。その判断基準は長に委ねられているが、ギルド自体の存続を危うくする長は他の長によって排除される。
アサシンはスラムから拾われたり政治的に抹殺された者の子供など、幼い頃にギルドによって確保された者から成り立つ。彼らはまず名前を奪われ、コードネームのみを与えられる。唯一の例外は幹部以上の人間で、彼らは然るべき地位に就いた時に渉外の為、名前を与えられる。
アサシンは肉体的な戦闘訓練、精神的攻撃に対する防御法、変装や開錠等といった必要な知識を教育される。脱落者に生きる道はない。また、常にコンバットドラッグや各種の毒物を処方されており、毒物の耐性やその行動力などから、戦闘において超人的な力を発揮するように訓練されている。特に暗闇からの奇襲攻撃、バックスタブに長けている者が多いが、無手での戦闘に長けた者、長物の扱いに長けた者、弓やボウガンでの狙撃で任務を遂行する者、また、マキャフィのように変装と毒殺、スタッフによる白兵術を得意とする者など、その手段は多岐に渡る。
アサシンでの暗殺はコストがかかる上に使い捨てであることが多い為、その依頼には政治的背景と小さな町を丸ごと買えるほどの金額が必要だと言われている。このため、政権にあっても実際にはアサシネイトギルドに牛耳られている人間も少なくない。
- 2007/05/15(火) 13:44:32|
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