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紅の調律者

偽島用。

今日のAIVO:18日目

様々な事情から、I.net全体でミス多発。
アイヴォリー個人では、送付と購入の順序確認忘れにより

・もらった孔雀石を要らない防具に
・駄石防具作製失敗
・料理ずれて1つミス

と3つ連鎖。お陰で1更新合成もずれる。アイテム欄圧迫と面白いほどコンボでだいだげき~。<ぷよぷよ

正味これからああいう豪快な提案は早くにしてください。じゃないと強権発動で却下しちゃうかも。
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  1. 2007/09/10(月) 11:28:06|
  2. 今日のAIVO
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前振り:十七日目

 “夢の国の門”と僕が呼ぶそれは、僕が召喚するものの中でもよく用いる存在の力を行使した、いわば転送装置だ。歴史の中で囁かれるようにして密やかに語られ、その存在を隠し通そうでもするかのようにさまざまな、より穏便な神性に小分けにして与えられた属性を持つその存在は、全ての場所、全ての時間に存在すると語られている。さまざまな顕現を持ち、数多の呼び名を持つそれは正しく“神”と呼べるものだった。
 だが、その本質は極めて危険なものだ。大小さまざまな虹色の球体が寄り集まったような見かけは、それが適当な大きさであれば変わったスライムとでも思われてしまうような、奇怪でありこそはすれ、狂気を誘うようなものではないかも知れない。だが、それが空を覆わんばかりの大きさであったり、どことなく知性を感じさせるような動きをするとなれば話は別だ。何よりも、“それ”が放つ悪臭と粘液質の光は、一般的な概念からすれば明らかな“邪悪”の持つそれだ。それが蠢く様は、強靭な精神を持ち、なおかつこの存在の意味を知っている、極限られた者の心にしか耐えられない。
 “全にして一、一にして全”。そう呼ばれた僕のお気に入りの存在は、その力で持って僕を目的の場所へと運んでいた。
 僕はこの存在を、天幕に籍を置く前、つまりしがない記録者でしかなかった頃から知っていた。使い方をも理解していた。だが、あまりに危険な存在であることも知っていたために、実際にそれを試したことはなかった。第一、身を守るために必要ないくつかの品は手に入れることが非常に困難だった。
 だが、天幕でそういった品を手に入れることは容易く、何よりも僕自身が力を持つようになった。“破滅の宇宙創生”と呼ばれる、この羽を意匠された鉄筆はいわゆる“猿の手”だったのだ。つまり、全ての願いを叶え、そしてさらなる絶望へと追いやる運命改変装置。たとえば、悪魔に魂を売り、見事に契約が履行されてだがその本質的な望みを叶えられない者。たとえば自らの力に奢り、欲に塗れて手にしたものが全て黄金へと変わる願いを叶えられたために餓死した王。玩具を直してくれる謎の男に弟を“直して”もらった姉。全て同じだ。つまりは、そういったものの総称が“猿の手”なのだ。
 僕はこの魔筆の使い方を、少しずつ研究していった。欲しい情報は天幕のデータベースからいくらでも引き出せた。その魔筆を用い、誰がどのようにして破滅したのか。どんな願いを叶えようとしたのか。そういった過去の“尊い”犠牲の全てから僕は法則を導き出した。だが、本当に僕はこれを使いこなしたかったのだろうか。本当はこの無限の力を秘めた呪いの道具に、滅ぼされたかったのではないだろうか。既に唯一無二のものを喪い全てに絶望していたあの時の僕には、そもそも恐れる破滅などは存在すらせず、唯夢に訪れる責め苦からの解放だけを望んでいたのだから。
 だが、それはあまりに遠い昔のことで、僕本人にすらもうその時の気持ちは思い出せない。もうあのときの僕は、存在しないのだから。
 魔筆の法則を把握した僕は、同時に虹色の球体の集積物を始めとする、様々な危険な存在と関わりを持った。身を守るために必要な細々した品があれば、そして何よりもこの魔筆があれば、僕は比較的安全にそれを呼び出すことが出来たのだ。無論、それは比較上のものでしかなく、かつて彼らの召喚方法を記述した魔術師が往来の下、多くの通行人たちの前で見えない魔物に貪り食われたことからも決して安全でないことは分かっていた。だから僕は常に細心の注意を払い、気まぐれではあっても邪悪ではない存在を選んで行使していた。
 “全にして一、一にして全”は、本質的に邪悪な訳ではない。ただ気まぐれで、人間の思考からあまりにもかけ離れた思考を持っているだけだ。周到な準備なく自らを呼び出した者を贄として啜ることもあれば、銀の門を超えた者と対等にやり取りをして手助けをしたこともある。彼──もっとも性別があるかどうかははなはだ疑問ではあるが──は人の敵として存在するのではなく、あくまでも超然と存在しているに過ぎないのだった。
 “全にして一、一にして全”が支配する“夢の国”は、不思議なところだ。訪れた者たちの中でまともな記録を残している者は僅かだが、その全ての描写が異なっている。素晴らしい少年時代の自らの故郷。ねじくれた木々が茂り、何かが常に追いかけてくる森。どこかの王宮のような豪奢な館。つまりは、その世界はその者の夢から形作られているのだ。
 僕は見慣れた荒地の中、唯一つ置かれた硝子の棺桶を避けてその向こうに並ぶ扉へと向かう。棺桶へと常に差し込んでいる清浄な光が僕の眼をいつものように射たが、今の僕はそれに微笑み返すことが出来た。荒涼とした大地に唯それだけが立っている扉の一つに手をかけ、それを開く。その向こうには、見慣れた“島”があった。

    +    +    +    

「ねー、アイ~?」

「おゥ、どうした。ソロソロ出て来ねェと朝メシ食いッぱぐれるぜ?」

 昨日、黒豹と山猪という危険な山の動物相手に戦いを終えたアイヴォリーたちは、それから山道を歩き続け、峠を越えた。そして道から少し離れた場所に、アイヴォリーが見つけてきた木々の開けた小さな広場のようなところをその日の塒と決めた。
 合流できたのは十二人。三人、シャンカたちのパーティはいつまで待っても現れなかった。こういったとき、アイヴォリーたちは事前の取り決めで自然にあるものを使った暗号を用いて連絡をすることに決めている。それによって道を外れても合流できなくなることはないのだが、それでもシャンカたちは現れなかった。結局、彼らは山の動物に負けたらしい。
 朝になって簡単な食事の準備を済ませ、ちょうど起きてきたやえにメイリーを起こすように頼んでからもう結構な時間が経つ。天幕を覗いたやえの話だともうメイリーは起きていてすぐに行くから、と彼女に伝えたらしい。もうそのやえも、そしてアイヴォリー自身も自分の食事を始めている。だがそれでもメイリーは出て来ない。いい加減声をかけるか、と思った矢先に彼女の方から声が飛んできたのだった。

「ねぇ、これどうかなっ?!」

「わ~、綺麗じゃなぁ!」

 彼女の姿を見て即座に反応したのは、アイヴォリーではなく横にいたやえだった。尋ねられたはずのアイヴォリーはといえば、彼女の方へと視線をやった状態のままで、見事に固まっていた。
 メイリーは、普段の白い服装ではなく、黒いドレスを身に纏っていた。胸元には薔薇をあしらったコサージュがドレスと同じ色の布で飾られている。山の朝にはある意味不似合いな、どちらかと言えば豪奢な館での夜会に映えるような、そんな服装。

「わ~、綺麗じゃなぁ!」

 固まったままのアイヴォリーの方をちらりと見て、今度は若干ぎこちない笑みでやえが先ほどと全く同じ台詞を口にした。どうにか間を持たせようとしたらしい。

「あ、あいぼりーさん!」

 小さく彼の名前を呼びながら、必死でやえが隣で呆けているアイヴォリーを肘で突付いていたりもするのだが、アイヴォリーの方は全く気付いた様子も無い。

「…………。
 良いわよやえちゃん。いつものことだから。」

「ふぇっぷ?!」

 若干白い眼でそう告げたメイリーの言葉に、アイヴォリーは妙な声を出した。ようやく我に返った彼は、今度は落ち着かなさげに視線をさ迷わせながらどうにか口を開く。

「っ、ッつーかナンでドコからそんなモン出したんだよッ?!
 ウチにはそんなモノを買うお金はありません!」

 どうにか口を開いたは良いが、言っている内容は支離滅裂を超えて錯乱していることが明らかになっただけの意味の無いものだった。その反応さえもメイリーには予想済みだったのか、本人はその格好のままで朝餉の用意がされた焚き火へとすたすたと歩いてくる。

「さっ、ご飯ご飯っ♪
 いっぱい食べて今日も頑張らなくっちゃね!」

「ッつーかそのママでメシ食うのかよッ?!」

 アイヴォリーの明後日の方向に飛んだツッコミにも、全く動じる様子もなくメイリーは不思議そうに頷いた。

「だって今日の服、これしかないのよ?」

「ッてソレで山登りする気かよッ?!」

 ようやく会話の方向がまともにはなってきた。とはいえ、まともになったのは方向だけでアイヴォリーは相変わらず動転していることがみえみえだった。

「あら、これこう見えても結構歩きやすいのよ~?」

 ほらほら、とか言いながらスカートの裾を摘まんでぴらぴらしてみせるメイリーから慌てて眼を逸らすアイヴォリー。んな歩きにくい服で山歩けると思ってんのか、とか何とか言葉を返そうとしたアイヴォリーだが、口の中でぶつぶつ言っただけで結局それは言葉にならなかった。

「だって、疲れたらアイがおぶってくれるんでしょ?」

「んなのイツ決まったんだッ?!
 てかそんなモンドコにしまってあったんだッ?」

 まさか彼女の荷物検査をしている訳でもないだろうに、アイヴォリーはどうでもいい部分に叫んだ。

「やぁ、綺麗な服じゃなぁ。」

「今度遺跡の外に出たらやえちゃんのも探してみよ?」

 二人で極普通に、だがアイヴォリーのもっていきたい方向とは全く別方向に盛り上がっていく会話。そろそろ諦めがついたのか、アイヴォリーは小さな溜め息をつくとこめかみを押さえて渋い顔をした。

「……ヤレヤレ、仕方ねェな。さっさと食っちまえ。ソロソロ行くぞ。
 ……カワイイ服をヨゴさねェようにな。」

 ようやく眼を逸らしたままでアイヴォリーが言えるのは、その辺りが限界だったらしい。彼はそれだけを言うと、立ち上がってどこへ行くつもりなのか姿を消した。

~十七日目──進まない“物語”~

  1. 2007/09/04(火) 09:15:51|
  2. 偽島
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前振り:十六日目

 まるで古い物語にも出てきそうな古風な書斎。明り取り用の小さなはめ殺しの窓とその真下にある大きな机、そして部屋の入り口である両開きの扉以外は全て本棚に埋め尽くされ、それらには、どこの、いつのものかも分からないような様々な国、時代の、様々な形態の本が収められている。それだけでは収まりきらない本たちは床に積み上げられていた。ところどころ本がない場所を占有するのは用途も分からない道具たち。占い師が覗き込むような大きな水晶球や、呪い用なのか何かの動物の足を乾燥させて飾り付けされた首飾り、瓶詰めの精巧な船の模型、異国の仮面。誰かが落書きをしたらしい小さな石。布をかけられた姿見や異形の怪物の模型。そんなものたちが、それでも整頓されて部屋に置かれていた。部屋の中央には来客用のソファとテーブル。書き物机の前の回転椅子は回せばそのまま来客に相対することが出来るようになっている。よほどこの部屋の主のお気に入りなのだろう。確かに居心地の良さそうな椅子だった。全ての家具は木材で統一され、部屋全体にセピア色の空気を与えている。要するに、いつの時代から存在しているのかも分からないような、まるで時間が止まっているかのような部屋。
 もっとも、この部屋に時の流れが存在するならば、の話ではあるが。
 いつものように、何も変わらないこの部屋の中で、部屋の主である緋色のローブを纏った男は、唯一いつもと同じではない表情を浮かべていた。いつも口元に浮かぶ、その尊大に歪められた片頬と口の端だけの笑みが、今は浮かんでいないのだった。

「やれやれ、仕方ないな……。」

 どこかの白い風の口癖と同じ独り言を呟いて吐息をひとつ。彼の目の前、書き物机の上には、そこだけ空間が切り取られたように四角く淡い光を放つ部分があった。その枠の中ではどこかの映像が流れている。荒廃した場所で相対する三人組同士。もうその勝敗はほぼ決していた。映像が動きを追っているらしい白い鎧を纏った剣士は既に膝をつき肩で息をしている。その間にも何かの魔術の副作用なのか、彼の身体の至るところから小さな傷が口を開けて新しく血を流しているのが見て取れた。
 部屋の主である男はその映像を何度か見ているのか、それとも決着が見えたからなのか最後まで見ずに視線を外す。

「感情封鎖、存在定義強化。自律行動を制限、リモートに切り替え。確定。
 やれやれ、まぁこんなものかも知れないね……。」

 前半分は誰かに言い聞かせるように、そして後ろ半分は自分に言い聞かせるようにして呟くと、その男は背中を椅子の背もたれへと預ける。大きく溜め息をつくと彼は蓬髪の中に煌くその赤い眼を閉じた。
 もう少し、戦えると思っていた。
 素体はいかに自分と同じものであるとはいえ、“島”に送り込まれてからの訓練によって近接戦闘が出来るように調整されている。集められた戦闘データを刷り込んであるので自分のように得物が扱えないという訳でもない。並の剣士よりも優秀な素養を持つもののはずだった。
 だが、負けた。
 無論、それまで全く負けなかった訳ではない。あの“島”へと送り込まれたその時点で全員が同じように均された状態から開始するあの場所では、どれだけ優れた者でも“並”でしかないのだ。だから勝っても負けても、その結果に関して不思議は無かった。後はそこで勝つための訓練と知恵があるかに過ぎない。それゆえに、その結果は重要ではなかった。
 だが、今回は違う。かつて勝ち、今回負けたその相手は“本来の島”から送り込まれた、“彼”の知り合いなのだから。

「大切なものなどあればいつか負ける。それは弱点だ。」

 この部屋の主が送り込んだ剣士はそう彼女に呟いた。

「大切なものがあるから負けない。それは力だ。」

 彼女はその白い髪の剣士にそう告げた。
 そして、その戦いは彼女の勝利で終わった。
 その彼女の言葉は、奇しくも“本来の島”で、白い髪の盗賊がよく口にする言葉だ。そして、戦うことだけを目的に創り出された白い髪の剣士には、絶対に許容できない言葉だった。
 “生きる”ために創り出された白い盗賊と、“戦う”ために創り出された白い剣士。相反する目的。つまり、その“色無”と名付けられたその白い髪の剣士にとっては、あそこで唯一絶対に負けることが出来ない戦いだったのだ。
 だが、彼はそれに敗れた。
 そして、戦うために創り出された彼は、自らでそれを知るが故に、敗北によって崩壊しつつあった。敢えていうならば、その戦いで勝つためだけに彼は送り込まれたのだ。その存在理由は今やなく、それにより定められた役割は崩壊していた。それは、役割のみを与えられていた彼にとって、正しく自らの崩壊でもあった。

「まぁ良いか。こんなものか。」

 紅のローブにその身を包んだ、色以外は白い剣士と瓜二つの部屋の主は自嘲めいた呟きを漏らす。“彼”の存在定義は最早存在しない。だが、それはその赤い男自身想像していた結果だった。
 どちらにせよ、後数日であの場所は崩壊する。その期限まではここから直接行動を操作してやれば、その中身が壊れていようとも動かすことは出来るだろう。つまりあそこでの実験は終わったのだ。

「ねぇ、“闇色の羽”は放っておいていいの?」

 部屋のどこかから、柔らかな少年の声がした。その心を蕩かすようなボーイソプラノとともに、光の枠の中の映像が切り替わる。その中では、黒い外套を身に纏った冥い眼をした男が新しい仲間に囲まれている。

「面白いね。“物語が終わっている”あれが、今さらあんなことが出来るなんて。良いんだよ。“彼女”の出方、ゆっくりと観戦しようじゃないか。」

 完全に他人事の口調でそう言って、一度その映像へと眼をやった紅の道化師は目を細めた。その視線の先にあるのは男を囲む四人の内の一人、本を胸に抱いた老婆の姿があった。

「単に転がすだけの手駒ならば今の試作の方がずっと優秀だ。彼女に一体どれだけのことが出来るのか……いや、彼のためにどれだけのことをして見せられるのか。ゆっくり見せてもらえば良いさ。
 一つの世界律から解放されすらしない人の身で、“終わっている物語”に書き加えることが出来るのならば、それはまだ僕ですら為しえていない一つの新しい展開だよ。興味深いね。」

 皮肉な口調でそう言ってから小さく鼻を鳴らす。自分の姿さえ知らず、存在することさえも確かではない相手に向かって宣戦布告した彼女を、緋色の魔術師は珍しいものを観察するような、どこか楽しげでさえある様子で見ているらしかった。

「そうそう、少し“夢の国”の扉を開く準備をしてくれるかな。少し出かけることにする。ここから書き換えても良いんだけど、やはりそれなりの舞台演出が無ければね。」

「何をしに行くの?」

 少年の言葉に、運命調律師と自らを呼ぶ彼は喉の奥で小さく笑ってから答えた。

「おいたが過ぎた悪戯っ子に、お灸を据えに、さ。」

 ローブの袂から覗いた“魔筆”から、紅の魔力が既に漏れ出し始めていた。

    +    +    +    

「カーナルド……カーナルド……迎えに来て……くれる?」

 そう呟いてシャルロットは消えた。残された白い発光体が浮かび上がってから掻き消える。それはビーバーのときと同じだった。
 あまりに簡単な勝利。メイリーが裂いた雲から差し込む太陽の光によって力の大半を制限された彼女はあっけなく倒れた。

「ヤレヤレ、アンマシキモチのイイモンでも無かったよな。」

 シャルロットの消え行く様を思い出して、アイヴォリーは一人呟いた。そのとき、消え行く彼女に対してアイヴォリーは痛烈な言葉を浴びせた。死にながらに生きるお前には、その相方である“英雄”は不似合いだ、さっさと成仏しろ。そういった意味の言葉を投げつけたのだ。それは半分は本心から出たものだ。その与えられた命を手放してしまったものに、それ以上この世界で存在する権利はない。この世界はあくまでも“生きる”ものたちの場所であり、死者たちのものではないのだから。だが、アイヴォリーはそれと同時に彼女を解放してやれない自分にも苛立っていた。
 シャルロットはあの場所に“障害”として囚われている。彼女を倒したアイヴォリーたちの前にはもう彼女は現れないだろう。だが、それは遺した彼女の想念を浄化出来たからではなく、単にアイヴォリーたちが“障害”を越えたからに過ぎない。シャルロットはまだ彼女を倒していない者たちがあそこを通過しようとすればまた現れるだろう。そのために囚われているのだから。
 そう、かつての“島”で、宝玉の守護者たちがそうだったように。彼らは“島”の魔力に囚われ、与えられた役割を延々と繰り返す。たとえ、それが自分の意思ではないとしても。つまりは、今の自分にしてやれることは何もないのだった。

「メイリー、メイリーは死んだらどうなると思う?」

「えええっ?!
 あ、アイ、よく分からないけど早まっちゃダメなのよっ?!」

 唐突に沈んだ眼でそう問いかけたアイヴォリーに、彼の小さな相方は仰天して叫んだ。まぁ沈んだ表情でいきなりそんな問いを投げられた者の反応としては一般的かも知れない。彼女は必死の形相でアイヴォリーの周りをくるくると──どちらかというとあたふたと──飛び回りながら、彼に必死に訴えかけ続けていた。

「ほらっ、こんなとこでも毎日ご飯は食べられるしっ……いつも草かパンくずだしたまに食べられない日もあるけど……アイの料理はおいしいのよ?
 パンくずからいっつもあんな色々よく作れるなぁって感心してるんだから!
 それにそれに、毎日いろんなことが起こって楽しいじゃないっ?」

「パンくずパンくず言うな。思い出して鬱になるぜ。あ、ちなみに今日もパンくずな。」

 フォローになっているのかいないのかよく分からない彼女の言葉にアイヴォリーが思わず苦笑を浮かべる。彼女の心配を払うかのようにぱたぱたと手を振って彼は肩を竦めた。

「オレは毎日ハッピーに過ごしてるさ。こうして“クソッタレ”な毎日をエンジョイしてるよ。
 ……大事なモンはイツだってソバにあるしな?」

「そう?
 それならいいけど……。」

 少なくとも、自分はまだ生きている。“生きる”意思がある。だが、それは彼女も同じだったかも知れない。それどころか、自分よりもその意思が強かったが故に、あんな姿になっても“障害”としてでも、生きる道を選んだのかも知れなかった。

「おっと……お客さんみてェだぜ。今日は牡丹鍋かねェ?」

 僅かに揺らいだ空気の変化を感じてアイヴォリーが眼を細めた。山の中で現れるものは獣たちでも、平地や砂地のそれよりも格段に強い。油断すれば自分が彼らの今日の食事になっているかも知れないのだ。
 何にしても、結果としてシャルロットと違い、自分は“生きて”いる。まだ続いていて、新しい道が開けている。その道を進むためには、大切なものを護り続けるためには。

 負けられない。

 アイヴォリーは低く身構えると、いつでも敵の突進を躱せるように辺りへと視線を飛ばした。

~十六日目──超えられない“壁”~

  1. 2007/09/04(火) 09:13:29|
  2. 偽島
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前振り:十五日目

 十五日目。アイヴォリーたちは一直線に伸びる山道を目の前にして休んでいた。無論山といってもここは遺跡の中、この“島”の魔力によって強引に作り出されたものだ。壁の代わりに踏破することが出来ない、切り立った崖や岩壁が道を作り出しているだけで基本的には他の地域と変わりはない。この山の先には魔法陣が存在し、さらにその先には森が広がっているらしいのだが、アイヴォリーたちはそこへ至った訳でもなく、また今は山のためにその光景を望むことも出来ない。今はただ、目の前の山道を登り続けるしかないのだった。
 全員が無言で黙々と歩き続けている。昨日山の入り口に入ったときから、何者かの気配がずっと彼らを監視していた。この山を抜けるために倒さなければならない敵。死してなお、守護者への想いに囚われた者が道を阻むというのは探索者の中では周知の事実だった。今はまだ、十五人が固まっているためか姿を見せない。だがこれ以上進もうとすれば、この“エンタメ”の主催者に与えられた役割を果たすべく姿を現すだろう。
 そしてもう一つ。彼らを厄介ごとが襲っていた。

「どうも補足されたようです。」

 いつも平然と──むしろ超然と──した様子の、彼らの仲間の一人。自ら自分は毒だと公言する妙齢の女。彼女はいつものように平然として、それを言ってのけた。

「……マイッたねェ、ソイツは。」

 切り株に腰を下ろし俯いたままで報告を受けたアイヴォリーが、小さく舌打ちし呟いた。形式上この十五人という大所帯のまとめ役はアイヴォリーということになっている。もっとも彼の性格上、すぐに姿を消したりと役割を放棄するので実際に彼がまとめているという訳ではないのだが。それでも仲間たちは律儀にも、問題が起こった際にはこうしてアイヴォリーに報告を入れてくる。中でも今回の“問題”は大きかった。

「で、どうにかなりそうなのかよ?」

「……厳しいと言わざるを得ません。」

 言葉少なにやり取りを交わす二人。そこにはいつもの能天気な様子はない。

「シャルロット戦もありますし、私たちは移動しない方が安全です。どちらにしてもシャルロットに負ければ抜けられませんし、ね。」

 この山道の“守護者”であるシャルロットに負ければ、その先へ進むことは出来ない。力を蓄え直し、もう一度山を訪れてシャルロットを倒さなければならなくなる。もしそうなってしまえば彼女たち三人だけが後れを取ることになる。

「“ココはオレに任せて先に行け”ッてか?」

 口の端に薄く笑みを浮かべ、アイヴォリーが冗談めかして呟いた。だがその目は笑ってはいない。もう一度舌打ちすると、アイヴォリーは大きく溜め息をついた。

「まァ分かった。警戒してなかったワケじゃねェが、今回は仕方がなかったトコもあるしな。」

 そう、彼らがいることは分かっていた。危険だということは理解していたのだ。だが、食料や日程の事情から彼らは自分たちの予定を優先した。
 人狩り。探索者たちが獣を狩って素材や食料を手に入れるように他の探索者を狩り、奪う存在。──かつての“島”からのルールの一つ。

「アイツらかよ……コイツは厄介だな……。」

 “仄明かり”と名乗る三人組はこの島では有名な人狩りだ。三人が弓を持ち後衛を狙い撃つ、今では定番化した対探索者戦闘に合わせた構成で既にいくつかのパーティが被害に遭っている。人狩りの中でも要注意のパーティだ。彼ら──というよりもその中の一人が、なのだが──は何の因縁か、アイヴォリーの知り合いでもあった。
 死人を操る術で死体を武器とするその青年に、アイヴォリーは何度か忠告した。“戻れなくなる”、と。それはその魔術の中毒性のことでもあったが、アイヴォリーが本当に伝えたかったことはもっと別のことだった。だが、人狩りを生業とする彼らとアイヴォリーの意見が相容れることはない。これまでそうであったように、そしてこれからもそうであるようにして、お互いに全く正反対の方法でもってこの遺跡を探索する糧を得ていた。

「コイツは厄介だな……。」

「“長”殿。失礼する。」

 アイヴォリーの呟きに答えるように、木の陰からローブの男が現れた。その顔にはどこか異国の地の仮面。突然現れたシャンカに驚いた様子もなく、アイヴォリーは僅かに彼に視線をやった。

「どうした?」

 そのアイヴォリーの問いに、シャンカは何も答えることもなく、ただ無言で頷いた。それを見て、アイヴォリーの口元に微かに笑みが浮かぶ。

「ヤレヤレ、仕方ねェな。」

 アイヴォリーはいつもの口癖でそう呟くと、意を決したのか“貴腐人”と仲間たちに呼ばれる彼女を見上げた。いつものようにして肩を竦めるその様子には、それまでの深刻な表情はもう見て取れない。ただ、いつも仲間たちに見せている人を食ったような、冗談めかした片頬だけの笑みが浮かんでいる。

「アンタらはシッカリヤッてくれ。今日は移動は無しだ。全く動かねェワケニャいかねェが、休憩をメインにする。移動は明日からだ。ホカの連中ニャ伝えとくからよ、アンタは二人のトコに戻って作戦でも練りな。
 ハナシは終わりだ、アンタも帰ってシャルロットの対策でも練ってくれ。」

「分かりました。」

「うむ。」

 自分の提案を──自分たちのパーティを置いていけ、という案を──却下されたにもかかわらず、問答無用で決定を一人で下したアイヴォリーの言葉に彼女は素直に頷いた。そもそも、人狩りに遭遇する可能性があることを分かっていながら多少強引に移動したのは、日程の問題があったからだ。ここで一日移動せずに過ごせばその当初の予定が崩れることになるのだ。だが、それでも彼女はそれ以上何も言わずにアイヴォリーに背を向け、立ち去った。シャンカも頷いて樹上に姿を消す。一人その場に残されたアイヴォリーが、その笑みのままで小さく呟く。

「ヤレヤレ……オレも甘ェよな、色々と……。」

 その言葉を聞く者はもう誰もいない。

    +    +    +    

「ッつーワケで、今日の移動はホトンドナシだ。すぐソコだから早々に荷物をまとめて移るぜ。イイな?」

 アイヴォリーの言葉に反論する者は誰もいなかった。それだけ今回の事態の重要さを全員が理解しているのだろう、アイヴォリーはそう理解することにして移動先のキャンプ設営予定地など細々したことを伝えていく。

「オーケィ……じゃあ解散だ。全員シッカリヤれよ?」

 そう締めくくると、アイヴォリーも自分の荷物を担ぎ上げる。ブーツとそこに佩かれた二本のダガーの様子を軽く足踏みして確認する。

「よし、イクぜ二人とも。」

 メイリーとやえを促し、率先して山道を上り始めるアイヴォリー。だが、すぐに周囲に霧が立ち込めた。すぐ目の前も見えないような濃い霧の中で彼の舌打ちだけが小さく響く。

「来ヤガッたな、二人ともハグレるなよ?」

 後ろの二人に警告し自分の荷物を捨てる。どこから襲われても良いように、低い姿勢でいつでもダガーを抜いて飛び出せるように辺りを警戒する。
 だが、すぐに霧は晴れた。不自然な状態で彼らの頭上だけに残り、薄暗いまま、だがそれでも身長二つ分ほどまでは綺麗に晴れている。周囲の霧が去ってみると、彼のパーティである二人はすぐ隣にいて戦闘態勢へと入っていた。しかし、すぐ後ろにいたはずの他の面々の姿は全く見えなかった。どうやらパーティを切り離すためのものだったらしい。彼らの行く手を塞ぐようにして、岩陰から少女が飛び出してきた。

「ごきげんよう♪」

 猫の耳、身体のあちこちから覗く骨。死体であると同時に守護者であるもの、シャルロット。まさに聞き及んだままの──最初の探索者が遭遇したままの──不自然なまでに情報通りの姿だった。アイヴォリーは同じような者を見たことがある。彼らと戦ったことがある。かつての“島”で、宝玉を護るための障害として設定された“守護者”たち。そしてこの“島”で遭遇したビーバー。彼らと同じように、今目の前にいる彼女も同じ役割を延々と果たすために“繰り返す”、囚われたものだった。

「フハハハハッ!あたいの名はシャルロット!かの英雄カーナルドの妻にして戦友、シャルロットよ!」

「悪ィケド、知らねェな。」

 即答するアイヴォリー。そもそも、“役割”を与えられて繰り返す“彼ら”とまともに話が通じることはほとんどない。どうやらシャルロットも話が出来るほど自我が残っているようでもない。もっとも、生ける死者に自我が残るのであればの話だが。

 岩の上で少し上を向いて仁王立ちし、ボロボロのドレスを靡かせる。

「でもこの通り、お肌ボロボロ骨ビローン……私が元に戻るには貴方の……」

 そして、彼女の瞳から光が消えた。意思が消え、ゆらり、とアイヴォリーたちの方へとへ一歩踏み出す。

「貴方の……ッ!!」

 今やシャルロットの瞳にあるのは、生に対する渇望だけだった。それは生ける死者たちにありがちな、あまりにも陳腐で、切ないほどの。

「メイリー、予定通りだ。嬢ちゃん、メイリーの魔術が終わったらオレたち二人でカタをつけるぜ。」

 生ける死者、つまりゾンビとなったシャルロットは高い活動維持能力を持っている。倒れても再び立ち上がり、傷を負わせた部分から相手の生気を啜る。それを打ち破るための手立ては、既に準備出来ていた。

「太陽よ!」

 メイリーの詠唱が魔力を巻き起こし、頭上の霧を裂いた。裂かれた間から、不自然に隠された太陽が再び一条の光を投げかける。

「イクぜッ!」

 戦いが始まった。

~十五日目──“節目”~

  1. 2007/09/04(火) 09:11:07|
  2. 偽島
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今日のAIVO:17日目

うっかりすると放置してしまいます<駄無

・レンタルでちびっこあいぼりーを描いて頂きました。多謝。
・気付くと召喚を開花。イヤ、まだだけど。どうやって落とそうか悩み中。どうせ10なったら消すんだけどさ。
・黒豹の猛襲撃を超回避。その後リッパーに超反撃され瀕死。明日はどっちだ。
  1. 2007/09/03(月) 16:02:12|
  2. 今日のAIVO
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プロフィール

R,E.D.

Author:R,E.D.
crossing daggers,
edge of the wind that coloured BLANC,
"Clear Wind" assassin of assassins,
blooded eyes, ashed hair,

"Betrayer"

his stab likes a ivory colored wind.
He is "Ivory=Wind".

二振りの短剣
“純白”と呼ばれし鎌鼬
“涼風”として恐れられた暗殺者
血の色の瞳、白き髪

“裏切り者”

その一撃、一陣の象牙色の風の如く
即ち、“実験体”。

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