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紅の調律者

偽島用。

今日のAIVO:22日目

人狩りは撃退。まぁあの状況で負けたら勝てる相手などいn(ry

人狩りバブルのはじける前に装備を調達するとしますか。
次回はくまっちとの練習試合にすべてをかけています。闘技ほったらかし。某もろぞふの人とかゴメンなさい。
まぁほら、勝てないしw
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  1. 2007/10/20(土) 05:27:36|
  2. 今日のAIVO
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前振り:二十二日目

 一区画だけ茂った木々の奥。アイヴォリーたちは一日かけてここへと辿り着いた。そもそもが不自然な生態系、調整された世界であるこの遺跡の中でも、この一角だけは異様だった。ずっと続いていた人工的な石畳の床が途切れ、土を付けた根が床を侵食しようとするかのように石畳の端を割って地下へと向かっている。無論そういった、境界線の付近の木々には力がないのだが、そんな外側の木々に守られて、その内側にはまさに森が広がっていた。
 森の外からでも分かるほどの大木が一本、一番奥にそびえている。恐らくはそこに、目的のものがあるのだろう。アイヴォリーたちは足早に森へと分け入っていく。

「そういや昔、ぶら下がり健康法ナンつーのもあったよなァ。」

 一体何の話なのか、そもそもそんな健康法が実際にあったのかも怪しいものだが、アイヴォリーは相変わらず彼の相方に向けて軽口を叩いてふざけていた。どうやらおぶってくれというメイリーの話をうやむやにしようとしているらしい。

「ウデをこう持ってだな、びろーんとな……。」

 横を歩くメイリーの手を取ったアイヴォリーが、彼女の手をつかんだままで万歳させるようにして彼女を持ち上げた。かなりの身長差があり、その上に手足の長さにもかなりの差がある二人なので、あっけなくメイリーはアイヴォリーに吊り上げられる形になってしまった。

「ちょっと、アイ、降ろしてよ~。」

 両手をアイヴォリーが握り込んで吊り上げている上、足も付かないメイリーには抗議することしか出来ない。アイヴォリーは吹き出しながら大喜びで笑っている。

「はッはッは、メイリーのタッパだとぶら下がりッつーよりか、高い高いみてェだな?
 たかいたか~い?」

 調子に乗ってメイリーを軽々と上げたり下げたりと遊んでいるアイヴォリー。最初は満更でもなさそうだった彼のパートナーの表情が段々と変わって行っていることに残念ながら彼は気付いていない。

「ちょっと!オコサマ扱いはやめてってあれ程言ったでしょうっ?!」

「高いたかおぶッ?!」

 メイリーの声と共に彼の腹の辺りから鈍い音がして、アイヴォリーが手を離しうずくまる。どうやら鎧の無い無防備な部分に彼女の膝が綺麗に入ったらしい。いくら鍛えている者でも、空気を吸う直前は肺の中の空気が一切無いために、衝撃を殺してくれるクッションになるものが無く、直接内臓に衝撃が及ぶ。狙ったのか偶々なのか、そんなタイミングでメイリーの振り回した足がアイヴォリーを直撃したようだった。

「それともなぁに?ちょっとお仕置きしなくちゃ分からないのかしら。
 どんな折檻がお好み?」

「せ、セッカンッてイツの時代のニンゲンだよ……?」

 相変わらずうずくまって顔を伏せたままで、それでもアイヴォリーはもういつもの声の調子で彼女をからかった。いつも以上に軽い調子で笑い声を上げて、無意味にはしゃいでいる様子が傍目に見ても丸分かりの様子だった。

「まァまァ、その調子なら宝玉戦も大丈夫そうじゃねェか。ま、ガンバろうぜ?」

 さっきのダメージが堪えていた様子もどこへやら、平然とした顔でしれっと起き上がったアイヴォリーはメイリーの頭に手を置いて軽く叩くように撫でた。

「もうっ……しょうがないんだから……。」

 諦めたように大きな溜め息を一つ、それでも彼女は笑顔をアイヴォリーに向けた。それを見てアイヴォリーは口の端でにやり、と笑い返す。
 初めての宝玉戦。初めての大きな山場。サバスもシャルロットも、このときのために腕試しとして戦ったようなものだ。その結果が、今日、すぐそこに迫っている。どこかでいつか見た同じような森の中、あの時と同じようにして、彼らはその戦いに挑もうとしている。負けることは許されない。それだけに、彼女の緊張がアイヴォリーにも手に取るように分かっていた。
 だが、こうして笑えるならば大丈夫なはずだ。笑っている彼女は途轍もなく、強い。
 アイヴォリーは安堵して、森の奥の大木を見透かすように目を細める。そのアイヴォリーの口元に浮かんだ笑みも、心なしか今日の朝のそれよりも柔らかい。

    +    +    +    

「アリャ、譲葉の嬢ちゃんの知り合いじゃなかったっけか。」

 森の奥を目指すアイヴォリーたち三人が向かう方角から、同じように三人連れがこちらへと向かってくる。その手には水色に輝くもの。恐らくは昨日既に水の宝玉を手に入れ、今から立ち去るところなのだろう。
 普通、探索者たちはこういった場合には知り合いでもない限り、どちらかが道を譲る。得体の知れない相手と遭遇するということは不必要な危険を呼び込むことに繋がるからだ。探索者たちは協力者であると同時に、競争相手でもある。下手をすれば人狩りである可能性もあるのだ。それゆえに、不必要な遭遇はお互いに避けるのだ。
 だが、彼らは一直線に彼らの方へと向かってくる。ふと、嫌な予感が頭を掠めてアイヴォリーが踏み出しかけた足を止めた。

「どうしたの、アイ?」

「まァ……嬢ちゃんの知り合いだしな……。」

 意味の無い呟きを口に上らせて、メイリーに声をかけられたアイヴォリーは足を踏み出した。知り合いの知り合いならば大丈夫だろう。そもそも彼らは今まで人を狩ったことがある訳でもない。自分たちはあの先にある水辺へ行かねばならない。そんな様々な思いが、油断に繋がった。
 十分に距離が詰まったところで、アイヴォリーが手を上げて挨拶する。仲間内の知り合いならばそうするのが当然だと思ったのだ。
 だが、それに対して彼らは無言で得物を抜き放った。

「ッ、メイリー、嬢ちゃん、宝玉の前にメンドクセェ厄介ゴトしょっちまったみてェだぜッ!」

 叫びながらアイヴォリーは低い姿勢を取ってブーツに佩いたダガーの柄を掴む。油断していた。自分の予感に従って、普段通りに彼らを避けておけば良かったのだ、だがそう思っても既に遅い。
 相手は三人ともが剣を得物にしているらしく、かなりの業物であることが遠目にも見て取れた。一撃には注意しなければならない。また後衛に据えた魔法使いを問答無用で攻撃してくる剣技にも注意が必要だ。あれをもらえばメイリーが危ない。彼ら三人の構成では火力であるメイリーが戦線を離脱するというのは、そのまま敗北に繋がることを意味している。
 それだけのことを見、把握し、考えながらアイヴォリーは間合いを詰めた。後は後方からメイリーが魔術で相手の体力をどれだけ削ってくれるかにかかっている。ここで負ければ、すぐこの後に起こるだろう宝玉戦に傷を負ったままで挑まなければならない。多少疲弊することは仕方が無いにしても、その傷のせいで今日の“本番”である宝玉戦に負ける訳には行かなかった。お互いに遺跡に潜って大分経つはずだ。残っている技の数はそう多くない。この戦闘が終われば帰還するだけの相手と、その後で宝玉戦をこなさなければならない自分たちとでは、有利不利には雲泥の差があるが、その状況が逆に自分たちの有利な点でもある。自分たちは、彼らと違って“負けられない”のだから。

「自分たちは宝玉掻っ攫っといて不意打ちとはイイ根性だ、そのクサッた考え方叩き直してヤるぜ!」

 アイヴォリーが吼えて相手へと踊りかかった。

    +    +    +    

 その木は大昔から生きているような感じで、枝分かれしたその先にはたくさん美しい葉があり、輝く水色の果実も生っている。
 木の下には二人の女の子が腰掛けていた。


「ヤレヤレ……ココか……。」

 アイヴォリーは彼女らの背後の大木を見上げ、口の端を歪めた。状態は万全と言いがたい。先ほどの人狩りとの戦いの傷は癒える訳もなく、それは妖精騎士の加護を得ているアイヴォリーでさえそうだった。大分疲れ切った様子の二人を振り返り、彼女たちの前で指を鳴らす。

「ツイたぜ、二人とも、キアイ入れろ!」

 突然上げられたアイヴォリーの怒声に、疲れからどことなく茫然としたいろを湛えていた二人の瞳が、はっと生気を宿す。それを見て、アイヴォリーは一つ頷いた。再びアリッサとメグリアに向き直り、口の端の笑みを深くする。

「私たちはこの果実を守っているの。」

「欲しいのよね?この”宝玉”が。」

 二人が立ち上がると、周囲の水辺が急に荒々しくなる。


 アイヴォリーは、言われなくても持って帰るつもりだった。どうせ何を言っても彼女らには通じない。彼女たちもまた、“島”に囚われた“障害”なのだから。
 ざわり。騒ぐ水が、蛇のような鎌首を持ち上げる。彼女たちを癒す壁として、敵を傷つける刃として。

「さて、貴方の欲しているものは私が所持しております。しかし、それを貴方に預ける前に、まずは一度お手合わせ願えますかな?」

「ゴタクはイイぜ。さっさと始めような?」

 いつものような、片頬だけを歪めるその笑みで、しかしいつもの愛嬌を全く感じさせずにアイヴォリーは笑う。サバドは表情を変えずに、芝居がかった仕草で両手を広げ、アイヴォリーの言葉に答えた。もう一つ影が伸び、サバドを模したような黒い影──マイナークラークと呼ばれるエージェントの部下──が一つ現れる。

ざわり。


 一瞬、かつての光景がアイヴォリーの脳裏でフラッシュバックした。どこかの森、遺跡の中の、砂地に囲まれた、そこだけが不自然に茂った森。
 “島”にあった森。
 アイヴォリーは頭を振ってその記憶を振り払う。目の前にいる敵はサバドではなく、もっと強力だ。

「アイ……ここ、あのときの森と同じだよ……精霊様が苦しんでる。」

 そうか、とアイヴォリーは納得した。この雰囲気は、それなのだ。強制的に力によって精霊たちを捕らえ、それを宝玉の恩恵としてこの周囲に満ちさせるという、人工的な自然。

「あァ。だケド、あの時オレたちは勝った。今回も、勝つ。」

 振り返らずに、背中に向かってそう声をかけた。そう、負ける訳には行かない。

~二十二日目──正念場~

  1. 2007/10/15(月) 11:48:52|
  2. 偽島
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前振り:二十一日目

 ようやく、この大きな広間の壁が見えてきた。アイヴォリーたちの前には、遥か遠くにではあるが、確かにその部分だけ茂る木々が見えている。

「やっと、かねェ。」

 床の中央に配された魔法陣“黒い太陽”を踏んだのが昨日のこと。そこからさらに床を全力で突っ切って、ようやく三日がかりでアイヴォリーたちは目的地へと到達しようとしていた。
 水の宝玉。遺跡の力の源。それを手にすればするだけ自らに力がもたらされ、遺跡の力が弱まると最近の情報は告げていた。だが、それでも、アイヴォリーはそれを手にし、持ち帰らなければならない。
 そのために“ここ”へと戻ってきたのだから。
 かつて、ここが“偽島”と呼ばれるよりもさらに前、ただ単に“島”と呼ばれていた頃に、初めて手にしたのも水の宝玉だった。メイリーと二人で遺跡の奥へと潜り、その一角だけ鬱蒼と木々の茂る森の中で、彼らは守護者と初めて対面した。サバトと名乗るその慇懃な態度の男から、戦いの後で彼らはその宝玉を渡されたのだ。
 あの時と同じように、今アイヴォリーの視線の先には、その一角だけ不自然に茂る木々が映っている。またあの男に会うのかとアイヴォリー自身は考えていたのだが、そうではないらしい。水の宝玉の守護者は二人組で、両方とも女だということだった。
 片方が強力な回復を用い、もう一人はその宝玉の影響を多分に受けた水の魔術を使う。同時に水属性の魔術に対する抵抗力を弱められるため、長期戦となれば非常に不利だった。
 回復役の女か、攻撃役の女か、そのどちらか一方に集中攻撃を浴びせて早めに彼女たちの連携を崩す。どちらかと言えば攻撃役を倒してしまいたいところだが、回復役を倒しても後は人数の差によって押し切れるだろう。どちらを狙うにしても、全員の攻撃を集めるのが常道だと言える。アイヴォリーはそう結論付けていた。
 今日の移動で、あそこまで辿り着けるはずだ。明日一日をかけてあの地域を探索し、二人組が守っているもののありかを補足する。
 宝玉を手にして、“戦友”を救うために自分はここへと来たのだ。負ける訳には行かない。アイヴォリーは自分にそう言い聞かせながら遥か先に霞む森を望む。

「ん……。」

 遥か向こうへと視線を飛ばしていたアイヴォリーの表情が険しくなった。視線を今までのそれよりはずっと手前、すぐ近くの壁際へと向ける。

「ソレニャ、マダ障害があるッてな……。」

 ゆらりと現れたフレッシュゴーレムに向かい、ダガーを抜き放つ。

    +    +    +    

「んーと……。」

 アイヴォリーは、分厚い資料と格闘していた。そこには、いつもアイヴォリーが合成に使っているルミィの置き土産の画面に良く似た、だがそれよりも煩雑な、画面の解説が載せられている。三角形を逆さに組み合わせた六芒星の中央に、人間に似た、だが一目で人間そのものではないと分かる亜人の女の顔を意匠した紋章。その周囲に並ぶ、恐らくは選択肢だろう見出し。一つ一つの項目がメニューとしてさらに中で細分化され、枝分かれしている。覚えるのは得意だが勉強は苦手というアイヴォリーにははっきり言って向かない作業である。
 傍らには実際に、その画面を表示させた置き土産──要するにノート型のコンピュータなのだが──が開かれて、メニューの暗い画面を時折脈動するように明滅させていた。

「召喚手順の方法として……DDS.Netからのダウンロードと、実際に捕獲したものをデータ変換した再召喚に分かれ……ダウン?ロード?」

 そもそも、その取扱説明書に書かれている用語が理解できないアイヴォリーには、この取扱説明書の説明書が必要なようだ。その証拠に全くといって良いほど読み進められていない。
 合成をようやく理解したアイヴォリーが、次に挑戦しているのがこの“召喚”だった。ハルゼイが島の素材から組み立てたこの合成用の機械には、それだけのためのものではなく、汎用性の高い統合機構がその根幹を成している。その機構が様々な計算や作業の指示を出し、その下に組み込まれた作業専用の機構がそれを実行する。つまり、合成は出来ることの一つとして組み込まれている機能に過ぎず、作業専用の機構さえあればその使い方は無限大に広がる優れた機械がこの薄っぺらい板の塊なのだった。ようやくそこまでは理解したアイヴォリーだったが、そこまでの理論を理解したからといってその専用の機構を使いこなせる訳もなく、その結果こうして唸っているのだった。
 アイヴォリーが、そういった明らかに自分向きではない作業を始めたのには当然訳があった。元々ハルゼイが研究の主題に置いていたのは、物質を一つの箇所からまったく別の場所へと移動させるという“転送”についてだった。実際に、彼は、宝玉から得られる無尽蔵のエネルギーを用いるという、制限付きではあったが、それを完成させたらしい。そして、その研究結果をアイヴォリーの手を介して伝えられたルミィも、ここにあるこの機械を使って他の世界へと飛んだ。つまり、この機械はアイヴォリーを、ルミィやハルゼイの求めていた場所や今いるかも知れない世界、果てはハルゼイが行こうとしていた彼の戦友たちの元へと導いてくれるものなのだった。
 合成は、専用の機械に別々に収められた二つの素材を、同じ場所へと転送することで再構成している。召喚は、どこかに別の場所に存在するものをその場に呼び寄せる。どちらも最初の位置から移動する際に、情報だけを保存して一度物質を分解し、その情報を別の場所に再構築することで効果を発揮している。再構築の際には、合成ならば二つの情報を混ぜ合わせ、召喚ならばその行動を自分の都合良く、味方として行動するように弄っている。もちろん、アイヴォリーにはそうらしい、という程度の認識なのだが。何にしても、そうやってどこか決まった場所にある物質を瞬時に移動させているというのが基本的な機構であり、それを自分に対して安全に使用できれば、彼の先達たちが実際にやってのけた“転送”を実現できるはずなのだった。
 だが、魔力をほとんど持たず、魔術の知識もないアイヴォリーには、当然のことながら召喚というもの自体が、自分の知識の範疇になかった。そんなアイヴォリーに与えられた召喚の方法がこのプログラムだったのは、アイヴォリーにも可能であるという意味では幸運だったと言える。だが、それはアイヴォリー本人にとっては、現状から察するにどう見ても不幸でしかないのだった。

    +    +    +    

 フレッシュゴーレム。主に様々な死体の肉を魔術によって合成したゴーレムを指す。その他のゴーレムと同じに、魔術で精錬された“真の銀”やその他の魔力を秘めた鉱物から作られた細い繊維で命令を各部位へと伝達し、身体に収められた魔力を発する“心臓”からのエネルギーで実際に駆動部を動かす。他のゴーレムにおいても駆動部には防腐処理を施された動物の筋肉などが用いられることは多いため、その構造の全てが有機物から構成されているフレッシュゴーレムは、ある意味もっとも基本に忠実なゴーレムと言える。
 だが、アイヴォリーのそんな知識を吹き飛ばす勢いで、それは予想外の行動をやってのけた。

「こ、こっち来ないでよ!」

「……しゃ、喋ったか?」

 アイヴォリーの空しい確認に答える者はいない。答えられる唯一の人間は隣にいるやえなのだが、彼女もぽかんと口を開けて呆けたままでそのゴーレムを見つめていた。
 フレッシュとはいえ、フレッシュ過ぎる。何ならゴーレムの会社でフレッシャーなのかも知れない。意味不明な“フレッシュ”の定義がアイヴォリーの脳裏を駆け巡るが、当然それは、先ほどの彼の問いよりもさらに空しいものでしかなかった。

『DDS.Netへようこそ。召喚プログラムを起動します。』

 アイヴォリーが脇に抱えた、板状の部品を貼りあわせたようなそれが、放置されている現状に不満気に、自分の存在を訴えた。実際に戦闘で召喚を使ってみようとしたアイヴォリーは、その機械を戦闘に持ち込み準備していたのだった。

「えーッと……?」

『被召喚物を選択してください。』

 せっつくようにして、何を召喚するのかと板状の機械は生意気にも音声で聞いてきた。無論、その間にもフレッシュゴーレムはアイヴォリーたちとの間合いを詰めている。こっちに来るなと言いながら。

『被召喚物を選択してください。』

 一定時間が経過しても何の行動も起こされなかったために、召喚プログラムは再度使用者に行動を促した。それを聞いたアイヴォリーのこめかみが、一瞬引きつるのがやえには見えた。

『被召喚物を選択し──』

「だあァァァァッ、ウルセェッ、んなモン適当に決めやがれ!」

 三度目にその音声が聞こえた瞬間、アイヴォリーは機械を投げ出した。慌ててブーツからダガーを抜き、自分の肉をその素材に組み込もうとして──無論一般的なフレッシュゴーレムならばそういう行動を指定されている、という話だが──迫るフレッシュゴーレムに身構えた。

「第一後ろでのうのうと機械弄ってられるヤツならともかく、前衛のオレにそんな悠長なヒマがあってたまるかよッ!」

 アイヴォリーが誰に対してなのかもよく分からない愚痴をこぼし──叫びながら光学迷彩を起動し間合いを詰める。

『タイムアウトにより被召喚物を自動で選択します。歩行雑草に決定しました。』

 アイヴォリーの愚痴に答えたのは、相変わらず無感情な機械からの音声だった。

「ウルセェ、ちっと黙ってろ!!」

 最早怒号と化したアイヴォリーの言葉に答えるものは、当然いない。

~二十一日目──理論と理論上と机上の空論~

  1. 2007/10/15(月) 11:46:44|
  2. 偽島
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前振り:二十日目

 “白の眼”。彼はそう呼ばれていた。生まれたときから“白”と切り離せない境遇であった彼にとっては、ある意味適当な二つ名だったのかも知れない。そうして白いローブに身を包み、白亜の座に腰掛けて、彼は全てを見てきた。白い髪、血が透けるために桃色に見えるはずの瞳。無論、もう長く開かれたことのないその瞳の色を実際に見た者はいない。かつて遠い昔にそれを見たことのある者たちは、年月が過ぎるに従って数を減らし、今や誰一人として生きてはいない。彼自身もまた老齢へと至り、人の身として信じられぬほどの時間を経て、自らに訪れる暗闇が近いことを悟っていた。
 彼に知りえないことは無かった。世の中の真理の全ては、彼の手の内にあった。生まれてから一度も、何一つ映すことのない瞳によらずとも、彼には全てが“見えて”いた。
 “白の眼”。まだ彼が若かった頃に、彼の噂を聞きつけて呼びつけた小さな国の王に対し、“強い光が見える”と告げた彼に対し、失笑とともに国王の取り巻きたちが付けた渾名。白子として生まれ、全くの盲目であった彼の言葉に対して投げつけられた嘲笑。
 だが、彼には見えていたのだ。その王が、光に焼き尽くされて跡形も無くなるその姿が。そして実際に一月後、魔術の暴走によってその王は光に焼き尽くされ、消えた。

    +    +    +    

 王の息子は非常に優秀だった。生まれてからずっと政治の暗部に晒されて、その中で生き残ってきた新しい王は、実際の年齢よりも老獪だった。“光”を告げた彼の言葉を呪いとしてではなく予言として捉え、一度は捕らえられた“白の眼”を片腕に据えた。父の築いた魔術の先進国としての恩恵を惜しみなく彼に与え、曖昧だったその能力を完全に覚醒させた。何も映すことのない瞳と、全てを知る力。指一つ動かすことの出来ない身体と、彼の許し無しには何者も立ち入れない力場。“白の眼”が生まれつき持っていた、その“見えない”二つの力を極限まで引き出すことが出来たのは新しい王が与えた教育の賜物だったに違いない。系統立てて力の使い方を効率良く認識した“白の眼”は、そうして究極の戦略兵器へと変貌した。一切攻撃能力を持たず、自らでは一歩もその場から動くことの出来ない、究極の兵器に。
 だがそういった自らの不利は、“白の眼”の力にとっては、些細なことでしかなかった。安全な城の中、もしくは野営の陣の中央であっても、彼は見えないはずのその目で見てきたかのようにして敵の軍の配置を見抜き、敵の将の作戦を看破した。侵略すべき国を指し示し、近隣の国の政変をそれが起こる前に予見した。どんな場所、どんな時においても彼は傷つけられることなく、力場の中では、刃、矢、魔術、毒、全ての結果が同じだった。
 彼が“千里眼”と呼ぶようになった、その目で見えないものはなく、知られないことも存在しなかった。彼が“障壁”と呼ぶ場の中では、彼が拒むものは何一つ働くことはなかった。魔術のためか、もしくはそう定められていたのか、人の寿命を遥かに超える歳を経て、“白の眼”の伝説は、そうして作られていった。

    +    +    +    

 彼はどういった経緯でこの任務が受け入れられたのかは知らされていない。そういった類のことは常に実働部隊には知らされることはないのだ。だが、それにしても今回の仕事の成功率は低いと彼は判断していた。“白の眼”の伝説を知らない者はいない。たとえそれが小さな子供であってもだ。全てを予見するフォーチュンテラー。鉄壁の障壁を持つ無敵の魔導士。そんな怪物を相手にしては、たとえ彼らが殺人の匠であるといっても任務を成功できるとは考えられなかった。
 だが、実際にその任務は与えられた。“白の眼”の障壁は眠っているときには発動しないという。無論それを確かめた者などいないし、全てを予見し未来を知る者が自分が狙われることを知らない訳がない。彼には様々な方法での対魔術が施されていたが、“白の眼”に対してそういった類のものが効果を発揮したという話は皆無だった。
 今回の目標、“白の眼”の殺害。普段非常に厚い城の見張りは一切排除されている。つまり、決められた道順を通る限りにおいては一切障害に遭遇することはない。相手の寝室まで移動し指先すら動かせない相手を殺すだけだ。だが、その相手は全てを知り、全てを拒む最強の魔術師だった。
 戦争はほぼ終結している。“白の眼”の予見により今回もこの国は非常に有利な条件で停戦交渉を進め、事実上相手の国を併合するだろう。一度の戦争によるこの国の被害は、そのたった一人の能力によって非常識なほどに少なかったが、結局総合的な国の疲弊は変わっていない。単に戦争の回数が多くなっただけのことだ。
 その依頼の内容から、依頼者を察することは難しくない。なぜこの国の最強を支える所以を排除するのか、それは分からないが。
 だが、それも彼ら実働部隊には関係ない。彼らは上層部が適当と判断し受諾した依頼を実行するだけだ。その結果が与える影響や、自らの行為にまつわる様々な事象を考えることはない。そのように訓練されているからだ。彼らは精巧な機械であり、忠実な実行者だった。たとえ任務に失敗してその結果自分が死ぬのだとしても。それどころか、任務が達成されてその結果自分が死ぬのだとしても、彼らはそれに頓着しないように訓練されていた。
 扉を開き、中に静かに滑り込む。窓から差し込む午後の光が優しく部屋の中を縁取っていた。奥には白亜の豪奢な御輿。そこから全てを予見する魔術師の座。薬を盛られた魔術師は、全てが手筈通りならば眠っているはずだ。全ての打ち合わせは対魔術防音の施された密室で行われたという。それゆえに“白の眼”にさえ予見出来ないのだ、と。彼は静かに、身動き一つしない白い魔術師に歩み寄った。

「良く来たな。」

 唐突に口から零れた言葉。この時点で“涼風”は任務の失敗を確信した。同時にダガーを抜いて動かない喉元へと走らせる。彼らは最後まで任務の達成に向けて行動するように訓練されている。
 その切っ先が、喉に触れる前に止まった。これまでの例に漏れず、その“障壁”が拒絶したのだ。対魔術の守護も、そして“涼風”の筋肉の動きも。通常の魔術とは異なり、“涼風”には抵抗の余地すらなかった。ただそうであることが自然であるようにして、ダガーを突きつけた不安定な姿勢のままで、全ての動きを封じられた。

「ただ一つだけ、頼みがある。」

 目を閉じたままで、時の止まった世界の中、“白の眼”の声がそう告げた。そして言葉を継いだ。

「国王に伝えるようにお前の上司に伝えろ。
 全てはいつか滅ぶ。人も、国も。」

 それから、“白の眼”は穏やかな笑みを口元に浮かべた。幸せそうに、満足そうに。同時に自らの拘束が解けたことを“涼風”は知った。ダガーを振り抜き、白いローブに鮮血が散った。ダガーを収め、普段通りに速やかにその場を離れる。結局、最後まで“涼風”は障害らしい障害に遭遇することもなく帰還した。

    +    +    +    

 すぐに“白の眼”を殺害した賊の捜索が始まった。だが、ギルドに手の及ぶことは無かった。そう話を締めくくるとアイヴォリーは一口茶を啜る。目の前の三人、シルヴェンとその護り手たちは三者三様の表情をしていた。シルヴェンはその話を引き出してしまった後悔に微かに顔を歪めている。二人の護り手たちは、その性格からか、片方は深刻そうに、もう片方はお気楽そうな表情でシルヴェンの顔を見つめている。
 “過ぎた力は不幸でしかない。”そう始まったこの話の最後は後味の悪いものだ。それがたとえ常人の健常さと引き換えに得られた代わりの力であっても。無論目の前のシルヴェンと伝説の“白の眼”では、その程度に大きな差があるだろうが、結局のところどちらも普通の人間からすれば異端であることには変わりない。結局アイヴォリーが依頼の背景も理由も聞かされることはなかったが、状況から大方の予想はついた。異端の大きすぎる力が、恐れられたのだ。

「さてさて、ソロソロお茶会はお開きだ。今日から床で忙しいしな?」

 そう言ったアイヴォリーの言葉には、口を差し挟む余地を与えない強さがあった。シルヴェンたちが立ち去ってから、アイヴォリーは小さく溜め息をつく。
 結局のところ、全ては茶番だったのだ。国王とその周囲の茶番に、アサシネイトギルドが乗り、伝説が終わった。
 だが、“白の眼”はどうだったのだろうか。彼もその茶番に乗っただけだったのかも知れないとアイヴォリーは思う。少なくとも、伝説の魔術師はその伝説の通り、鉄壁の障壁で一切の働きを許さなかった。ただ彼が“許容”したがゆえに、あの時彼は死んだに過ぎない。それは、あの場で彼を退けてもずっと続く繰り返しを“白の眼”が知ってしまったのかも知れないし、もしくは単に続けることに飽きただけだったのかも知れない。だがその真相を語らずに、“白の眼”は穏やかな笑みだけを“涼風”に刻み付け、死んだ。そしてそれは、今でもアイヴォリーの片隅に刻み付けられている。
 アイヴォリーには、彼が遺した言葉を伝えるつもりはなかった。報告の中にそこまでの義務はない。だが、それを書くときにふと気が変わり、結局上司には彼の言葉が報告された。恐らく、その言葉は件の国王に伝わったのだろう。
 なぜなら、“白の眼”の死体に“涼風”が背を向けたそのとき。

──必ず、その言葉は伝わるだろう。──

 “白の眼”の声が、はっきりと“涼風”の頭の中で響いたのだ。

~二十日目──昔語り~

  1. 2007/10/15(月) 11:44:16|
  2. 偽島
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前振り:十九日目

「ヤレヤレ、カンベンしてくれよなァ……。」

 アイヴォリーは大きく溜め息をついた。サバスとの戦闘を前にして大分参っているらしい。一人の今では、普段人前で見せている余裕の表情も、そして普段常に口元に浮かべている人を食った笑みも浮かんではおらず、ただ眉間に寄せられた皺だけが彼の精神状況を如実に示していた。

「大丈夫かよ、こんなんで……。」

 結局、あれから会議の終わった仲間たちの部屋へ怒鳴り込んだアイヴォリーの案は、一部だけが採用されたもののそのほとんどが却下された。具体的には、三人が互いを補ってどうにか機能している彼の班に関しては、サバスとの戦いでの三人での挑戦は受け入れられたものの、その後に続く戦いでは三人の組み合わせは受け入れられなかった。既に決められていた通り、二人で挑むように説得されたのだ。
 無論、仲間たちの言い分はもっともだ。自分たちの手に余る敵を相手にするときは、そもそもの遭遇確率を減らす方が安全なのはアイヴォリーにも分かっているのだ。三人で二体の敵を相手にするよりも、二人で一体の敵を相手にする方が明らかに効率が良い。相手の攻撃はどちらかが捌けば済むのに対して、こちらは相手一人に集中すれば済む。背中を気にしながらもう一体に攻撃を仕掛けなければならないのとは明らかに訳が違うのだ。だが、アイヴォリーの場合はそれで済まされない精神的な問題があった。

「ッつーか、ソレならオレとメイリーを一組にすればイイだろうがよ……。」

 アイヴォリーは、その二人組の行動においてやえと組むことになっていた。つまりそれは、メイリーとは別行動になるということを意味している。それは、耐久力に劣るアイヴォリーとメイリーの組み合わせが危険だという判断によるものだったのだが、アイヴォリーにとっては承服しかねる内容だった。

「コレじゃ、メイリーがケガしてもどうしようもねェだろうがよ……。」

 心底参った様子で呟くアイヴォリー。もちろん、彼女と二人で戦うことになっている黒猫の実力を疑っている訳ではない。だが、それでも自分がメイリーの傍にいられないということは、彼にとってあまりにも不安な要素だった。
 結局、彼女から離れられないのだ。かつてメイリーが危険な目に遭ったのは自分が傍にいなかったときだ、ということを思い出させられ──確かに、そういう場面もあった。二人で一緒に危険な目に遭った回数と同じくらいには、という意味だが──再びアイヴォリーが苦い表情を浮かべた。そう、要するに自分が、メイリーの傍にいられないということが不安なのだった。

「まァ……でも決まっちまったコトは仕方ねェよな……。」

 そう、それは既に決まってしまったことだ。今さらアイヴォリーが煩悶してどうこうなる問題でもない。それに、現実的には自分が前に立つよりも、黒猫の方が打たれ強いのだ。自分といるよりも安全だと割り切るしか、アイヴォリーに残された解決方法は存在しない。それに、戦闘において一番危険なのは、そうした心の迷いであることは、自分自身で痛いほどに理解していた。今日はサバスと三人で戦わなければならないのだ。その先の心配のために、三人で戦う今日の戦闘で後れを取るようなことがあっては、まさに本末転倒というものだ。

「後は……アイツのコトか……。」

 今のアイヴォリーのもう一つの心配ごと。彼が“アイツ”と呼んだのは、皆無と名乗るのーねえむが連れてきた男のことだった。
 会ったときから、生きる意思が薄いのは感じていた。のーねえむがいなければ存在できないのではないと根拠のない不安を感じたのは、あながち間違いでもなかったのかも知れない。それほどまでに、この“島”で“生きる”ために必要な、精神面に不安がある人物だったのだ。それは、存在感といっても良い。自らで道を切り開き、思考することで自分を確立出来ているのかが、アイヴォリーにとって不安な人物だった。
 その彼が、離脱すると告げてきた。闘技での度重なる敗北の責任を取るためだと彼は言った。いくつか思いついた、引き止めるための言葉はあったのだが、それをアイヴォリーは結局口にはしなかった。
 まったく同じ戦い方をしていれば、いずれその戦闘方針は次の相手に読まれ、瓦解する。そのために、誰もが技のタイミングをずらし、相手の意表を突く技を敢えて用いることで流れを自らに引き寄せるのだ。それを出来ずに勝つことは、いくら強くても出来はしない。そういった面で、彼にはこの“島”で生き抜くために必要なものが欠けていた。このままでは他の仲間たちにも危険が及ぶ。咄嗟にそう判断したアイヴォリーは、彼の申し出を止めなかったのだ。
 闘技大会は、あくまでも、島の遺跡内部で起こるであろう人狩りとの戦いの、いわば模擬戦闘だ。普通の探索者に容易に技を読まれるようであれば、対人戦闘に長けた人狩りを相手にしての戦闘においては言うまでもない。勝負は見えている。そしてそもそも、それを読まれないようにしようという意思こそが、“ここ”ではもっとも重要な、“生きる”ための道具なのだ。
 そういった様々な要素を考えて、アイヴォリーは、彼を“切り捨て”た。
 これから先、彼は単独で探索を続けるという。それは非常に危険な選択肢だ。二人での遭遇が安全か危険かという階層の話ではない。一人は、常に一番危険なのがこの“島”なのだ。だから、アイヴォリーは心の中で彼のこれからの安全を祈ることしかしなかった。
 選ぶこととは、捨てることと同義なのだから。一つの何かを選んだものは、常に選ばれなかった側のものを捨てて生きている。そして、メイリーという揺るがない唯一のものを選んだアイヴォリーには、全ての比較対象は常に捨て去る側のものでしかなかった。
 口の端を歪めて、いつもの笑みを浮かべてみる。いつもよりも皮肉な笑みが、ほんの少しだけ、自分にしかわからない程度に少しだけ、皮肉に歪んでいるのを痛いほどに感じて、アイヴォリーは自分にもその笑みを向けた。
 それは単に、彼の気のせいだったのかも知れない。だが、それは今の彼にとってはたった一つの真実なのだった。

    +    +    +    

 昼前。アイヴォリーが昼の準備もそこそこに、何かの書類と格闘している。かなり分厚いその紙の束は、細かい字でびっしりと書き込みがなされ、さらにそこに追加された注釈が混沌として紙を埋め尽くした、かなり難解なものだった。

「コイツを……こう……ココに繋いで……。」

 その資料を見ながら、ルミィが置いていった薄っぺらい機械から伸びたコードを弄繰り回す。普段は二つ折りにされ、使われるときでもそれが開かれるだけだったその板状の機械は、いまや分解といって差し支えないほどにばらばらにされていた。

「この配線はココのトコだろ……えーと、だから……。」

 手先が超人的に器用な盗賊職のアイヴォリーであっても、その機構が理解できていなければ弄りようがない。傍らに置かれた資料と睨めっこをしながら、元あったらしい場所を何度も確認しつつ開かれた機械の中身を弄っている。
 今までにも、何度も開けるとこまでは繰り返した。中身の構造は完全に諳んじている。目を瞑ったままでも中の配線を全てあるべき場所に繋ぐことが出来る。だが、それでも彼はその未知の機械と資料とを、何度も見比べながらその作業を少しずつ進めていた。
 合成に使われる移動式のラボと呼ばれていた、ノート型の小型PC。ハルゼイがその時代にそぐわぬ知識と知能で開発し、ルミィがその技術を受け継いだブラックボックス。アイヴォリーは今、二人が残した情報を手がかりに、その機械に自分の改造を加えていたのだった。機構など一切彼には分からない。だが、同じ機械でルミィはどこかの世界へと飛ぶゲートを開いて消えた。ハルゼイは、ここに集約された知識で持って他の様々なことをやってのけた。
 そして今、アイヴォリーの手元には、残された機械と、記された知識、その両方が手元に揃っている。ならば、彼らと同じことがアイヴォリーにも出来るはずなのだ。通常の合成にはもう迷うこともない。次に彼が必要としているのは、二人の先人がやってのけた“もう一つの”機能だった。
 物質を、他のところへと送り届けること。ハルゼイは、その機能を使ってかつての島で離れた仲間たちに物資を送っていた。ルミィは自分自身をどこかへと送り込んだ。今でも、既に二つの箱の中身を集約して片方に収束させるという、アイヴォリーにしてみれば魔術でしか為し得ないことをこの機械はやってのけているのだ。ならば、後はその移動距離を伸ばすだけ──のはずだった。

「う~ん……マイッたねェ。」

 ようやく、その細かな基盤から目を上げたアイヴォリーが誰ともなしに呟いた。目頭を揉みながら吐息を一つ。

「……メイリーに魔術で送ってもらった方が早ェんじゃねェ?」

 アイヴォリーがその技術を習得するには、まだ先は長いらしい。

    +    +    +    

 サバス。“ここ”を出る前に、一度見えた相手。雑草を呼び出す能力。それを自らの力に変えた戦闘力。──“島”に設定された、“障害”。

「……礼儀知らずな奴め。このサバスが矯正してくれる……」

 アイヴォリーは、もう敢えて何も言わなかった。彼ら“障害”に、会話は通じない。ただそこにあるのは、まだ“障害”を乗り越えていない者に対する、障壁としての役割。

「悪ィケド、テメェのヤリ口はお見通しナンだよ……。」

 小さく呟いたアイヴォリーの、口の端が酷薄に歪む。壁を越えなければ、その先へ続く道は進めない。アイヴォリーは足元の砂を蹴った。

~十九日目──道程~

  1. 2007/10/15(月) 11:41:17|
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前振り:十八日目

 僕は扉をゆっくりと開くと、その向こうに広がる景色を見下ろした。そこには、“あのとき”の地下二階で、“障害”として定められていた、アルミル、カラミラとサレミレと名付けられた三体の石像がいた。そしてその中心で、あたかもその三体に向かって語りかけているようにして呟いている一人の少年。僕の今回の目標。──オスカー──。
 どうやら彼は、まだ僕に気付いていないらしい。それは当然だろう。何故なら“そのとき”、僕はその場に“いなかった”。僕が訪れるはずではなかったのだから。

「さぁ行こう、この世界を壊しに!」

 オスカーの声とともに、単に島の“障害”でしかなかった三体が瘴気を帯びて闇色に輝き始める。その“いろ”の発端は他でもない、中心の少年だった。沸き起こる瘴気に晒されて動き出した三体は、最早その本来与えられた役割から逸脱し、彼の尖兵となったことが明らかだった。
 ここは“彼”の世界。彼の物語の中。“物語記録者”たる彼に与えられた力で持って、本来の“島”の予定から少しだけ改変された世界の中。“オスカー”が、自らに与えられた役割を逸脱した“世界の中”。
 彼は、もうすぐそこを訪れるアスカロン──彼女の勢力に敵対するものを殲滅する役割を帯びた武器──と戦うために、彼自身で記録すべき物語を改変してしまったのだ。それは彼からすれば、喪われたものを取り戻すために自らの力を行使したという、正当な行為でしかなかっただろう。だがそれは、彼には“許されていない”範疇の行いだった。
 僕が中空から彼を監視する中、砂地の向こうから現れたのは、彼が待ち受ける者たちだった。アスカロン、ジョルジュ、譲葉、“教授”。この偽りの島で、最後の期限に立ち向かうようにしてそこを訪れた、“三人”。彼らに向かい、オスカーの命に従うようにして三体の“障害”は彼らに向き直った。

「……オスカー。君が使役しているその“障害”を、今すぐ解放したまえ。」

「お前は……R,E.D.!
 なぜ僕の邪魔をするんだ!」

 僕が声をかけ、少女の姿で顕現していたアスカロンと、そして声をかけられたオスカーが僕に向き直った。三体が動きを止め、僕に気付いた両者の中央に浮かぶ僕に向き直ろうとする。その内一体──カラミラと呼ばれていた石像──が機先を制して僕に飛び掛ってきた。オスカーの意思に最も感応したのだろう。一番動きが早かった。

「仕方ないな……それは元の役割を思い出し、自らに与えられた権限を超越しないように動きを止めた。

 僕の目前で、その派手な色に染められた、意思を持つ無機物の身体が動きを止める。それと僕との間には、僕が綴った緋色の血文字が浮かび上がっていた。

「無駄だよ、オスカー。君は自らの力を、自らのために使おうとした。それは“僕たち”には許されないことだ。つまり、初めから叶わないことが決められている。」

 オスカーの表情が憎悪に歪んだ。ゆらゆらと、熾き火のように揺らめく眼光が僕を射る。だが、心を惑わせる邪眼をちょっとした手品で操る僕には、意味のない凝視でしかない。

「まだだ!
 残った二人で奴らを倒せばいいだけのことだ!」

「だけどオスカー、その“障害”の内二つだけでは、彼らに敵わないことも、知っているだろう?」

 歯軋りの音まで聞こえてきそうな彼の怒りの面差し。だが、僕がそれに怯むようでは、僕は僕の役割を果たせない。

「諦めるんだオスカー。君は自らの“役割”を逸脱している。このままでは君に待っているのは……破滅だ。」

 僕は静かに、彼を諭すようにオスカーの名前を呼び続ける。かつて、“アスカロン”を通して、僕の部屋でそうしたように。だが、それでは足りなかったのだ。そして彼に訪れたのは、永遠の闇だった。
 僕は、僕の役割としてではなく、彼に滅んでもらう訳には行かない。なぜならば、僕たちは同じ“役割”を与えられたものなのだから。彼はかつての僕であり、僕はもう一つの彼なのだから。

「オスカー。まだ君は知らないだろうが、僕は君に呼びかけた。君はそれをはねつけた。
 ……そして君は滅んだ。
 だから今こうして、繰り返さないために僕は此処へとやってきたんだ。
 君は僕と同じように無限ではない。だから、警告する。
 今すぐ本来の役割に戻りたまえ。でなければ……君は僕を敵に回すことになる。覚えておきたまえ。その使い方を理解するまでは、改変するというのはとても危険なことなのだと。


 僕はいつか言った言葉を繰り返していた。それに気付き、僕は密かに舌打ちする。これでは、役に立たないというのに。僕は、僕を救わなければならないのに。かつて失敗した過ちを繰り返してはいけないのに。

「ふざけるな!
 お前にどうこう言われる筋合いはない!」

 オスカーはそう吐き捨てるようにして言うと、僕が支配したカラミラの支配権を取り戻すべく意識を集中させた。僕たちがそうして話し合っている間に、サレミレとアルミルも彼の支配から解放され、与えられた本来の役割に従ってジョルジュたちと戦闘を開始していた。

「ならば仕方がないね……切り離す。少しの間、頭を冷やして来たまえ。さもなくば……。」

 僕の右手が新たな文字を綴り始め、それに合わせてオスカーの足元に暗黒の闇が広がり始めた。眠りへと誘う扉、夢の国への強制送還。同時に僕の傍らには、虹色の球体が寄り集まったものが姿を見せ始めていた。ぼんやりと、だが少しずつ明確になってゆくその存在を目にして、オスカーがさらに燃え盛る視線を僕に投げつけた。

「決めたまえ、どちらが良いかを。それだけは、物語に介入した、物語の中へと取り込まれつつある君の行動を敢えて束縛はしない。」

 僕に一瞥を向けてから、オスカーは足元に広がる暗闇の中へと姿を消した。同時に辺りに充満していた瘴気が和らいでいく。ジョルジュの傍らにあった少女が僕へ目をやった。
 僕は少しだけ口の端を歪めて。

「やれやれ、仕方ないな……。」

 誰にも届かないと知ってはいても、そう呟かざるを得なかったのだった。

    +    +    +    

──In your dream──長い幻の中
「さて、君はどう思う。彼は……僕の警告を聞いてくれるかな?」

「ふん、そんな訳ないでしょう。それで止めるくらいなら、最初からしていないわ。」

 挑戦的な瞳のままで、僕を睨みつけて彼女は言った。僕は肩を竦めると小さく笑う。何かを投げ捨てるように。

「だろうね。
 ……そこで提案だ。僕に、協力したまえ。僕へ攻撃するのではなく。僕が必要としたときに、その運命を切り裂く力を振るうだけで良い。僕は彼の書き換えたものを調律し、避けようのない致命傷から守ってあげよう。分かるね、自らの敵を見定めるのは大切なことだ。」


    +    +    +    

 気付けば、僕は書斎のいつもの椅子にいた。戻ってきて少し眠っていたらしい。僕は眠りを必要としないが、眠れない訳ではない。この非常に“創造的な作業”は、肉体的に必要でなくても僕にとって不可欠のものだ。
 ゆっくりと目の前のモニタを見やると、そこには荒れ果てた景色の中、立ち枯れた木の枝に刻まれた文字だけが映っている。

消える……存在が、定義が……まだ、俺は──

 僕は、ゆっくりと一度目を閉じて、そして呟いた。

──消去──。

 閉じた瞳の裏側で、微かに閃光が走った。ほんの僅かに、だが確かに、僕の“魂”が削られた音を、僕は聞いた。

「もう、“役割”は終わっていたんだよ……彼女に負けた時点で。」

 胸が痛む。自分の喪失など、あのときの痛みに比べれば感じることさえ出来ないほどに小さなものだと思っていたのに。
 だがそれは、必要な痛みのはずだ。僕は成し遂げなければならない目的がある。“彼女”のために。僕のために。

    +    +    +    

「オイオイ、ソレマジかよ?」

 買い物から帰ってきたアイヴォリーが大声を上げた。目の前には腕組みをして首をかしげているメイリー。紅茶の件から、遺跡外の買出しを一手に引き受けてしまったために、その間に重要なことが決まってしまっていることも多い。

「うん、サバスさんは雑草がたくさんいるから?
 後はその後も危ないからってみんなが……。」

 これから踏み込む遺跡の第四ダイブ、どうも危険なので安全策を取ろうということらしい。だがその安全策を聞いてアイヴォリーが叫んでいることからすると、かなり偏った案らしかった。

「ソリャココじゃキビしいトコに踏み込むときはオヤクソクらしいケドねェ……。メイリーは大丈夫なのかよ?」

「うん……多分、多分ね……。」

 目を伏せて指先を弄くるメイリー。予想通り、明確な返答は期待していなかったものの、アイヴォリーは頭を掻いて溜め息をついた。

「仕方ねェな。ソイツでホントに勝算があるのか、みんながソレで安全なのか、もう一回オレが聞いてきてヤるよ。このママじゃメイリーも不安だろうしな?」

「うん、アイ、お願いね?」

 島の地上中心部の賑わいから抱えてきた荷物をどさりと投げ捨て、遺跡外で彼らが逗留している酒場へと向かう。もう一度大きな溜め息をつきながら空を見上げ、アイヴォリーは小さく口の中で呟いた。

「このママじゃ、オレが不安だッつーの……。」

 アイヴォリーの心の叫びは、小さすぎて誰にも聞かれることもなく、秋の空へと吸い込まれていく。

~十八日目──たった一つの冴えたやり方──放逐?!~

  1. 2007/10/15(月) 11:37:59|
  2. 偽島
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今日のAIVO:22日目

放置プレイかよ!<僕が

いかんいかん。

・どうにか凌ぎました。アイヴォリーを警戒してくれて助かった。サドゥンを基点にアンデッドキラー、パイプイス滅多刺しとかメイリー集中砲火が一番危険要素だっただけに。雷雲消えたら急に殺せなくなるのでな。
・仲間入れ替え大会。細雪に代わりました。
・物質転送はまだか。鏡花水月はいつだ。むしろ避けれるのかそれで。
  1. 2007/10/15(月) 11:34:43|
  2. 今日のAIVO
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プロフィール

R,E.D.

Author:R,E.D.
crossing daggers,
edge of the wind that coloured BLANC,
"Clear Wind" assassin of assassins,
blooded eyes, ashed hair,

"Betrayer"

his stab likes a ivory colored wind.
He is "Ivory=Wind".

二振りの短剣
“純白”と呼ばれし鎌鼬
“涼風”として恐れられた暗殺者
血の色の瞳、白き髪

“裏切り者”

その一撃、一陣の象牙色の風の如く
即ち、“実験体”。

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